セカンド・サマー・オブ・ラブ

セカンド・サマー・オブ・ラブ：イギリスを席巻したダンスミュージック革命

1980年代後半、イギリスの若者文化を激変させたダンスミュージックムーブメント「セカンド・サマー・オブ・ラブ」をご存知でしょうか？その名前は、1960年代後半のヒッピー文化「サマー・オブ・ラブ」に由来し、その再来を予感させる勢いで社会現象となりました。

このムーブメントの発端は、スペインのイビサ島。マーシャル・ジェファーソンやフランキー・ナックルズといったシカゴハウスのDJたちが、ジャンルを超えた自由な選曲とプレイスタイルでオーディエンスを魅了しました。イギリス人DJたちがイビサ島の熱狂を故郷へ持ち帰り、ムーブメントは一気に加速します。

しかし、その中心地となったのはロンドンではなく、マンチェスターやリバプールといった北部の工業都市でした。これらの都市は、それ以前から活気のあるクラブ文化を育んできた土地柄だったのです。

セカンド・サマー・オブ・ラブを象徴する音楽は「アシッドハウス」。このテクノ系の音楽にのせて、各地で大規模なレイヴ（野外パーティー）が開催されました。人里離れた野外、廃墟、倉庫など、ありとあらゆる場所で、DJと参加者たちが一体となって作り上げる非商業的なイベントが特徴です。

当時のイギリス社会は閉塞感に覆われていました。そんな中、セカンド・サマー・オブ・ラブは若者たちに衝撃を与えました。それは、参加者主導のDIY精神、そしてそれまでのイギリスにはなかった開放感と連帯感です。週末になると、口コミで広まった辺境のレイヴ会場に何千人もの若者が集まりました。知らない者同士が抱き合い、肩を組み、大音量の音楽に身を委ね、踊り明かす――それは、従来のイギリス社会では考えられない光景でした。

このムーブメントの隆盛には、エクスタシーなどの多幸感ドラッグの流行も影響しています。ドラッグが、参加者たちの高揚感をさらに増幅させ、レイヴの熱狂を支えた一面もありました。

セカンド・サマー・オブ・ラブはイギリスにとどまらず、ヨーロッパ大陸にも急速に広がっていきました。フランス、ベルギー、ドイツなどでも同様のレイヴが開催され、ヨーロッパ全体を巻き込む一大ムーブメントへと発展しました。マンチェスターでは「マッドチェスター」ムーブメントを引き起こすなど、ロックシーンにも大きな影響を与えました。

しかし、レイヴの急激な拡大は政府や警察の懸念を招きました。ドラッグ問題や社会不安の増大を危惧した当局は、レイヴへの規制を強化し始めます。そして、レイヴ開催を取り締まる「クリミナル・ジャスティス・ビル」が成立することとなります。

さらに、セカンド・サマー・オブ・ラブの隆盛に目をつけた商業プロモーターたちが参入し、高額な入場料を徴収する商業レイヴが増加しました。これにより、ドラッグの質の低下、音楽やレイヴ自体の質の低下、粗製濫造といった問題も顕著になってきました。やがて、当局の許可を得た商業レイヴが主流となり、セカンド・サマー・オブ・ラブは徐々に勢いを失っていきました。

セカンド・サマー・オブ・ラブの担い手たちは、商業レイヴへと流れていく者、アンダーグラウンドな精神を受け継ぎクラブ文化を支える者へと分かれていきました。

しかし、その精神は現在でもクラブ文化に大きな影響を与え続けています。非商業志向、DIY精神といったセカンド・サマー・オブ・ラブの精神は、現代のクラブミュージックシーンを支える重要な要素となっています。社会現象となるほどの大規模なものではありませんが、非商業的で非合法のフリーパーティーも各国で開催され続けているのです。セカンド・サマー・オブ・ラブは、単なるダンスミュージックムーブメントを超えて、現代の音楽文化に深く刻まれた重要な歴史的事件と言えるでしょう。

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