セザール・リッツ

セザール・リッツ：ホテル王と呼ばれた男

セザール・リッツ（César Ritz, 1850年2月23日 - 1918年10月24日）は、ホテル経営における革新的な手腕で「ホテル王」と称えられたスイスの実業家です。彼が手がけたホテルリッツ（パリ）、リッツ・ロンドン、カールトンホテル（ロンドン）は、いずれも成功を収め、現在もその名を冠したホテルが世界中で展開されています。

生い立ちと修行時代

1850年、セザールはスイスのニーダーヴァルトで、13人兄弟の末っ子として生まれました。村長を務める父のもと、雪深い村で質素な生活を送りました。その後、語学学校や鉄工所での見習いを経て、ホテル業界へ足を踏み入れますが、当初は「ホテルマンには向いていない」と酷評されるなど、苦労の連続でした。

17歳でパリ万国博覧会に挑み、スイス館での給仕の仕事を得ます。当時のパリは、人口増加や都市開発が進み、社会構造が大きく変化していました。セザールは、ホテル・スプレンディドでの勤務や、一流レストラン「Voisin」でのウェイターとしての経験を通じて才能を開花させ、20歳で支配人に抜擢されます。

しかし、普仏戦争の影響でパリは食糧難に陥り、セザールは動物園からゾウを買い取り、その肉を人々に提供したという逸話が残っています。この出来事を通じて、セザールの名は広く知られるようになりました。その後、パリ・コミューンの混乱を避けてウィーンへ渡り、再び万博のスイス館で給仕として働いた後、フランス南部で様々なホテルでの経験を積みました。

名声の確立

1877年、モンテカルロのグランドホテルの支配人に就任すると、その手腕を発揮し、わずか1年でホテルの収益を倍増させました。コレラの流行をきっかけに、衛生面への徹底的なこだわりを持つようになり、客室にトイレとバスタブを完備したり、内装を清潔に保てるように工夫するなど、ホテル業界に革新をもたらしました。

1880年には、スイスのグランド・ナショナル・ホテルの経営を任され、ラジオや映画がない時代に、宿泊客を楽しませるための様々なイベントを企画し、ホテルを成功に導きました。また、料理長のジョルジュ・オーギュスト・エスコフィエを招聘し、レストランの質を向上させるなど、美食の追求にも力を注ぎました。

1888年、グランドホテルのオーナーの姪であるマリー＝ルイーズと結婚。その後、地位を確立するために、オテル・ド・プロヴァンスやホテル・ミネルヴァを買収し、ホテル経営者としての道を歩み始めます。1889年からは、ロンドンのサヴォイ・ホテルでも働くようになり、モンテカルロ、ドイツ、ロンドンと多忙な日々を送りました。1891年には、ローマのグランドホテルの設計にも携わり、ルームサービス用の調理場やエレベーターのスペースを確保するなど、先見の明を発揮しました。

リッツ・ホテルの誕生と晩年

1896年、セザールはリッツ・シンジケートを設立し、国際的なホテル展開を開始します。しかし、サヴォイ・ホテルでの不正が発覚し、解雇されるという挫折も経験しました。その後、パリのヴァンドーム広場に理想的な場所を見つけ、リッツ・パリを設立。内装やサービスに徹底的にこだわり、1898年にオープンしたリッツ・パリは、各国の著名人や富裕層に愛されるホテルとなりました。

その後、マドリードやロンドンにもリッツ・ホテルを展開し、成功を収めますが、多忙な日々の中で心身を疲弊させ、精神を病んでしまいます。1902年に予定されていたエドワード7世の戴冠式の延期が決定すると、そのショックから精神的に不安定になり、幻覚を見るようになったと伝えられています。1911年には役員を外れ、療養生活を送るも回復することなく、1918年に孤独な死を迎えました。

セザール・リッツの遺産

セザール・リッツの死後も、彼のデザインやコンセプトは受け継がれ、リッツ・ホテルは世界中で展開されています。彼の革新的な経営哲学と顧客への徹底したサービス精神は、現代ホテルの基礎を築き、その名は今も世界各地の高級ホテルに受け継がれています。

なお、「ザ・リッツ・カールトン」は、セザール・リッツの死後にアメリカのホテルチェーンがフランチャイズ権を取得したものであり、セザール・リッツ本人とは直接的な関係はありません。

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