セバスティアーノ・ヴェニエル

セバスティアーノ・ヴェニエル（1496年 - 1578年3月3日）は、ヴェネツィア共和国の元首（ドージェ）であり、ヴェニエロとも呼ばれます。81歳という高齢でドージェに選出され、その短い治世（1577年 - 1578年）は激動に満ちていました。

若き日のヴェニエル

ヴェニエルは若い頃、法律家として活躍していました。1565年には、ヴェネツィアとオーストリア・ハプスブルク家との間で発生した国境紛争の会議に、ヴェネツィア側の主席代表として参加しました。その交渉手腕は高く評価され、政治家としての才能を開花させていきます。

1570年、オスマン帝国の侵攻が予想されたコルフ島に、施政官（軍事面での最高責任者）として赴任します。彼は島民からの信頼も厚く、ヴェネツィアの船乗りからは「メッセール・バスティアン（ミスター・砦）」という愛称で親しまれていました。この頃から、ヴェニエルは軍事面でも頭角を現し始めます。

レパントの海戦

1571年、ヴェニエルはレパントの海戦において、ヴェネツィア軍の海軍総司令官に任命されます。当時75歳という高齢でしたが、彼はその豊富な経験と強いリーダーシップでヴェネツィア艦隊を率い、オスマン帝国海軍との激戦を繰り広げました。ヴェニエルは非常に怒りっぽい人物であったと伝えられていますが、その情熱と決断力が勝利に貢献したと言えるでしょう。レパントの海戦は、ヨーロッパのキリスト教国がオスマン帝国の拡大を食い止めた重要な戦いとして、歴史に名を刻んでいます。

外交戦略とヌール・バヌ

ヴェニエルの外交手腕を示すエピソードとして、姪のチェチーリア・ヴェニエル＝バッフォをオスマン帝国のスルタンに売り渡したという話があります。チェチーリアはイスラム教に改宗させられ、ヌール・バヌと改名しました。彼女はセリム2世の側室となり、後のスルタン、ムラト3世を生みます。ヴェニエルの目的は、ヌール・バヌを介してスルタンをヴェネツィア寄りに操縦することでした。この大胆な戦略は、当時のヴェネツィア共和国の外交がいかに複雑で狡猾であったかを物語っています。

ドージェとして、そして最期

1577年、ヴェニエルはヴェネツィアの元首（ドージェ）に選出されます。しかし、その治世は長くは続きませんでした。1578年、ドゥカーレ宮殿（元首官邸）が火災に見舞われ、甚大な被害を受けます。この事件はヴェニエルの心に大きな衝撃を与え、心痛から心臓発作を起こし、亡くなりました。

セバスティアーノ・ヴェニエルは、弁護士から軍人、そして元首へと、多様な顔を持つ人物でした。レパントの海戦での勝利や、オスマン帝国との外交戦略など、その生涯は波乱に満ちており、ヴェネツィア共和国の歴史において重要な役割を果たしました。

関連項目：
レパントの海戦
ヴェネツィアのドージェ一覧

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