セベロドネツクの戦い (2022年)

セベロドネツクの戦い

セベロドネツクの戦いは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻における東部攻勢、特にドンバス地域での戦闘において重要な位置を占める軍事衝突です。セベロドネツクは当時、ルハーンシク州の行政中心地であり、隣接するリシチャンシクと共に、ウクライナが同州で保持する最後の拠点となっていました。この都市を巡る激戦は、侵攻の初期段階からその終結まで、戦況に大きな影響を与えました。

背景

2022年2月28日、ロシア軍はセベロドネツクへの砲撃を開始し、これにより死傷者が出ました。ガスパイプラインも被害を受けました。3月2日には、セベロドネツク近郊の村々で戦闘が激化し、市街地への砲撃が続きました。学校の体育館が防空壕として使用されるなど、民間施設も攻撃対象となりました。ウクライナ当局はロシア軍の侵入を撃退しましたが、その後も攻撃は継続しました。

4月に入ると、ロシア軍はルハーンシク州の大部分を制圧したと主張し、セベロドネツクへの砲撃も激しさを増しました。ウクライナ軍はクレミンナ町からロシア軍を一時的に押し返しましたが、ロシア軍は戦力をセベロドネツク付近に集中させ、4月18日には空爆を開始しました。これにより、多くの市民が避難を余儀なくされました。4月末には、ロシア軍はドンバス地域全体の制圧を目指し、全面攻勢を開始しました。

戦闘

5月6日、ロシア軍とLPR（ルガンスク人民共和国）軍はセベロドネツク郊外に進出し、包囲を試みました。市長はセベロドネツクが事実上包囲されていると報告しました。ロシア軍は南からも都市を封鎖しようとし、ポパスナを制圧しました。5月9日には、LPR軍がセベロドネツク南東の集落を制圧し、周辺地域への攻撃を開始しました。ルビージュネ、ヴォエヴォディフカ、ビロホリフカでは激しい戦闘が続き、ウクライナ軍はドネツ川に架かるロシア軍の浮橋を破壊し、大きな損害を与えましたが、市への砲撃は続きました。

5月中旬には、セベロドネツクと隣接するリシチャンシク市は事実上包囲され、電力と水の供給が途絶えました。ロシア軍はセベロドネツクへの地上攻撃を控え、砲撃に重点を置きましたが、包囲を完了させるために、他の地域でも攻撃を続けました。5月24日には、セベロドネツク地区の複数の居住地がロシアの支配下に入りました。

5月27日、ロシア軍はセベロドネツクへの直接地上攻撃を開始しました。市街地での戦闘が激化し、ロシア軍は都市の北部にあるホテルを占拠しました。ロシア軍は都市を分断しようとし、北と南西から攻撃を続けました。ウクライナ軍は補給線を維持しようとしましたが、ロシア軍の進撃は止まりませんでした。

5月31日には、ロシア軍が都市の3分の1から半分を制圧しました。ウクライナ軍はより有利な陣地へ撤退を開始しました。6月1日には、アゾト化学工場への砲撃により、硝酸タンクが破損し、周辺の住民が避難を強いられました。6月2日には、アゾト工場の地下に約800人の民間人が避難していることが明らかになり、ロシア軍が市中心部に到達したと報じられました。

6月上旬には、ウクライナ軍は一部地域で反撃に成功しましたが、ロシア軍の猛攻は止まず、市内の状況は悪化の一途を辿りました。ロシア軍はリシチャンシクへの補給路を遮断しようとし、焦土作戦を展開しました。ウクライナ軍は防衛を続けましたが、ロシア軍の圧倒的な火力と戦力差に苦戦しました。6月8日には、ウクライナ軍が都市郊外に押し戻され、民間人の救助も困難になりました。

6月10日以降も激しい市街戦が続き、双方が多数の死傷者を出しました。6月11日には、アゾト化学工場に避難している民間人の救出交渉が行われましたが、状況は依然として厳しく、都市の大部分がロシアの支配下に置かれました。6月13日には、セベロドネツクと他のウクライナ地域を結ぶ最後の橋が破壊され、都市は孤立しました。6月14日には、ロシア軍が都市の80％を制圧し、全ての避難ルートを遮断しました。

最後通牒と撤退

6月15日、ロシア軍はウクライナ軍に降伏を求めましたが、ウクライナ軍はこれを拒否しました。6月16日には、撤退が可能なウクライナ軍にリシチャンシクへの撤退命令が下されました。ウクライナ軍は一部の輸送ルートを維持していると主張しましたが、ロシア軍の支配地域は拡大しました。6月17日には、ロシア軍がセベロドネツクとリシチャンシクの制圧に戦力を集中させていることが指摘されました。

6月19日、ウクライナ軍はセベロドネツク南東の都市トシュキフカの防衛に増援を送りましたが、ロシア軍の包囲はほぼ完了していました。ウクライナ軍の司令官は市街戦を続けるリスクを認識していましたが、ロシア軍を疲弊させるために防衛を続けました。6月20日には、ウクライナが依然として市の「3分の1以上」を支配していると主張しましたが、メトルキネはロシア軍に奪われ、セベロドネツクの大部分がロシアの支配下に置かれていることを認めました。

6月24日、ウクライナ軍はセベロドネツクからの撤退命令を受けました。数ヶ月に及ぶ砲撃で陣地を維持することが困難になったためです。6月25日、ウクライナ軍の撤退後、ロシア軍はセベロドネツクを完全に制圧しました。

分析

戦争研究所（ISW）は、ロシア軍がセベロドネツクの戦いに戦力の大部分を投入したことで他の前線を弱体化させていると分析しました。ISWはまた、セベロドネツクの戦略的な価値は限定的であり、その占領に費やした努力は割に合わないと指摘しました。ウクライナの軍事アナリストは、この戦いを西側の軍事援助が届く前にロシアが行う最後の攻撃であると考えていました。英国防省は、ウクライナ軍の反撃によってロシア軍の勢いが鈍化した可能性があると述べました。

ISWは、ロシア軍が工業地帯に進出し、アゾット化学工場への攻撃を激化させていると報告しました。ロシア軍は大規模な砲撃を行い、兵士の進軍を助けようとしました。ウクライナ軍は、ロシア軍の火力が10倍の優位性を持っているにも関わらず、陣地を維持し、敵を阻止しようとしました。

ウクライナ軍の指揮官は、戦線が常に変化しており、市内の40-60％を支配していると主張しましたが、西側の武器供給の遅れに不満を述べました。また、アゾト化学工場が破壊されると大惨事になる危険性を指摘しました。

ISWは、ロシア軍がセベロドネツクに戦力を集中させれば数週間以内に掌握する可能性が高いと分析しました。一方で、ウクライナ軍は数週間にわたってロシア軍の人員、兵器、装備をこの地域に引きつけ、ロシア軍全体の能力を低下させることに成功したと指摘しました。

民間人への攻撃

セベロドネツクでは、民間施設への攻撃が複数回発生しました。2022年3月には、ロシア軍が避難所や小児病院を砲撃し、多くの民間人が犠牲になりました。4月には人道支援センターが攻撃され、5月には避難所として使用されていた学校が爆撃され、多数の死傷者が出ました。砲撃が激化したため、ウクライナ当局は死傷者の計測を停止しました。ゼレンスキー大統領は、セベロドネツクとリシチャンシクでの人的被害が「恐ろしい」と述べ、外国からの軍事援助を求めました。

セベロドネツクの戦いは、ロシアのウクライナ侵攻における重要な転換点の一つであり、激しい市街戦と民間人への攻撃が特徴的でした。この戦いは、ロシア軍がドンバス地域を制圧するための重要なステップであり、その後の戦況に大きな影響を与えました。

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