セリエA (サッカー)
セリエAは、イタリアにおけるプロサッカーの最上位リーグです。正式名称はセリエ・アー（Serie A）ですが、スポンサー契約により、国内では「セリエA エニライブ」、国外では「セリエA メイド・イン・イタリー」といった名称が用いられています。イングランドのプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ、ドイツのブンデスリーガ、フランスのリーグ・アンと並び、ヨーロッパを代表する「五大リーグ」の一つとして、世界中のサッカーファンから注目を集めています。
リーグの起源は1898年に遡りますが、現在の全国リーグ形式となったのは1929年です。特に1990年代には、数々の世界的スター選手が集結し、イタリアのクラブがUEFAチャンピオンズリーグで7年連続決勝に進出するなど、「世界最高峰のリーグ」と称される黄金期を迎えました。しかし、2000年代半ばに発覚した大規模な不正事件「カルチョポリ」、国内選手の世代交代の遅れ、そして2010年代にUEFAが導入したファイナンシャル・フェアプレー（FFP）規則による資金面での制約は、リーグに大きな影響を与えました。それでも、イタリア特有の温暖な気候や、近隣の旧ユーゴスラビア諸国や南米から選手が集まりやすい環境も手伝い、リーグ全体の技術水準は高く維持されています。
セリエAのもう一つの特徴は、厳格な監督ライセンス制度により、イタリア人監督の占有率が非常に高いことです。外国人監督が指揮を執るケースは少なく、招聘される場合もイタリアでの長い指導経験を持つ人物が大半を占めます。このため、セリエAは外国人監督にとっては指揮するのが難しいリーグ、いわゆる「鬼門」であると認識されています。
リーグ優勝は「スクデットを獲る」と表現されます。「スクデット」（scudetto）とはイタリア語で「小さな盾」を意味し、優勝クラブは翌シーズンのユニフォームにイタリア国旗の「トリコローレ」をあしらった盾形のエンブレムを縫い付けて戦う栄誉が与えられます。さらに、優勝回数が10回に達するごとに、「ステラ」（stella、「星」の意）と呼ばれる金色の星の刺繍をユニフォームに追加することが許されています。最多36回優勝のユヴェントスは3個、20回優勝のインテル・ミラノは2個、19回優勝のACミランは1個のステラを付けています（2023-24シーズン終了時点）。
セリエAの歴史は非常にダイナミックな変化を経てきました。1950年代から90年代前半にかけては、ユヴェントス、ミラン、インテルといった「ビッグ3」を頂点に、中堅クラブ、そして地方クラブである「プロヴィンチャ」からなる「三階建て」構造が特徴でした。ビッグクラブはプロヴィンチャから主力選手を獲得し、プロヴィンチャは選手の移籍金で運営資金を確保するという相互依存関係が成り立っていました。地域ごとの結びつきも強く、選手移籍が活発に行われ、この構造がリーグの基盤となっていたと言えます。しかし、フィオレンティーナからユヴェントスへの移籍は特に「禁断の移籍」と呼ばれ、激しいサポーターの反発を招くこともありました。
1990年代中盤に入ると、衛星有料放送の普及によるサッカーのビジネス化やボスマン判決による外国人選手枠の撤廃など、カルチョの国際化が急速に進みました。これにより従来の「三階建て」構造は崩壊し、代わりにユヴェントス、ミラン、インテルのビッグ3に加え、ローマ、そして豊富な資金力で台頭したラツィオ、フィオレンティーナ、パルマを含む「セブン・シスターズ」と呼ばれるグループがリーグを牽引しました。新興クラブは大型補強で優勝争いに加わり、特に1999-2000シーズンにはセブン・シスターズが上位を独占するなど、その力を見せつけました。しかし、過剰な投資による経営の綻びが露呈し、サッカーバブルが崩壊すると、ビッグ3を除くクラブは財政難に苦しむことになります。フィオレンティーナは2002年に破産、ラツィオやパルマも巨額の負債を抱え経営破綻寸前に追い込まれ、ローマも多額の負債を抱えるなど、セブン・シスターズの構図は短命に終わりました。
2000年代半ば以降、経営難に陥ったクラブは再建の道を歩み始め、かつて没落した中堅クラブもセリエAに復帰し、再び「三階建て」に近い構造が形成されつつありました。しかし、その最中に2006年のカルチョ・スキャンダルが発生。ユヴェントスはセリエBへ降格し、ミランなどにも処分が下されました。この影響で、インテルや、再建を経て力をつけたローマ、ナポリがリーグの中心となりました。しかし、この事件は観客数の減少や国内の選手育成の停滞を招き、リーグ全体のレベル低下や代表チームの弱体化にも繋がったと言われています。
2010年代に導入されたFFP規則は、リーグの勢力図を大きく塗り替えました。それまで多くのクラブがオーナーの資金で赤字を補填していましたが、FFPによりこれが困難になったため、経営方針の見直しが迫られました。特にオーナー依存が高かったインテルとミランはFFPの影響を強く受け、主力選手を放出して経営を立て直そうとした結果、戦力が低下しリーグ中位に低迷しました。一方、親会社からの支援があり、自前のスタジアムを所有していたユヴェントスはFFPの影響を比較的受けにくく、経営面での優位性を活かして2011-12シーズンから2019-20シーズンまで、セリエA史上前人未到の9連覇を達成しました。
しかし近年、かつてFFPの影響で低迷したミラノの2大クラブが復権を果たしています。オーナー交代とフロント陣の刷新によりチーム強化が進み、2020-21シーズンにはインテルが、翌2021-22シーズンにはミランがそれぞれスクデットを獲得し、2季連続で両クラブがリーグのトップ2を占めました。
現在のセリエAは20クラブによって争われ、各チームがホームとアウェーで2度ずつ対戦する年間38試合のリーグ戦形式で行われます。勝ち点は勝利で3、引き分けで1、敗北で0が与えられ、シーズン終了時の勝ち点合計で順位が決まります。勝ち点が並んだ場合は、当該チーム間の直接対決の成績が優先されます。欧州カップ戦にはUEFAランキングに応じた枠が与えられ、通常UEFAチャンピオンズリーグに4枠、UEFAヨーロッパリーグに3枠が割り当てられます（うち1枠はコッパ・イタリア優勝枠）。一方、リーグ下位3チームはセリエBへ自動降格となります。財政問題によるプロライセンス剥奪があった場合は、セリエC以下への降格もあり得ます。過去にはフィオレンティーナ（2002年）やパルマ（2015年）が財政破綻により複数カテゴリー降格を経験した例があります。
出場停止規定では、警告累積が4回に達すると1試合の出場停止となり、その後は3回、2回、1回と累積に必要な回数が減るサイクルが続きます。1試合中に2枚の警告で退場となった場合も原則翌試合出場停止ですが、悪質性が低い場合は適用されないこともあります。外国人選手の登録については、EU圏内の選手は無制限ですが、EU圏外選手の新規登録は原則年間2名までと定められています。
観客動員数は欧州主要リーグの中でも上位に位置し、2016-17シーズンには平均2万2千人以上を記録しました。一方で、過去にはサポーターによる暴動が深刻な問題となり、2007年には警察官が死亡する痛ましい事件が発生し、リーグ戦の一部が中止や無観客試合となった歴史もあります。
このように、セリエAは栄光と困難が入り混じる激動の歴史を経てきました。近年は伝統的な強豪が力を取り戻し、再び競争が激化しています。独自の戦術や文化、そして情熱的なサポーターに支えられ、今なお多くのサッカーファンを魅了し続けています。
リーグの起源は1898年に遡りますが、現在の全国リーグ形式となったのは1929年です。特に1990年代には、数々の世界的スター選手が集結し、イタリアのクラブがUEFAチャンピオンズリーグで7年連続決勝に進出するなど、「世界最高峰のリーグ」と称される黄金期を迎えました。しかし、2000年代半ばに発覚した大規模な不正事件「カルチョポリ」、国内選手の世代交代の遅れ、そして2010年代にUEFAが導入したファイナンシャル・フェアプレー（FFP）規則による資金面での制約は、リーグに大きな影響を与えました。それでも、イタリア特有の温暖な気候や、近隣の旧ユーゴスラビア諸国や南米から選手が集まりやすい環境も手伝い、リーグ全体の技術水準は高く維持されています。
セリエAのもう一つの特徴は、厳格な監督ライセンス制度により、イタリア人監督の占有率が非常に高いことです。外国人監督が指揮を執るケースは少なく、招聘される場合もイタリアでの長い指導経験を持つ人物が大半を占めます。このため、セリエAは外国人監督にとっては指揮するのが難しいリーグ、いわゆる「鬼門」であると認識されています。
リーグ優勝は「スクデットを獲る」と表現されます。「スクデット」（scudetto）とはイタリア語で「小さな盾」を意味し、優勝クラブは翌シーズンのユニフォームにイタリア国旗の「トリコローレ」をあしらった盾形のエンブレムを縫い付けて戦う栄誉が与えられます。さらに、優勝回数が10回に達するごとに、「ステラ」（stella、「星」の意）と呼ばれる金色の星の刺繍をユニフォームに追加することが許されています。最多36回優勝のユヴェントスは3個、20回優勝のインテル・ミラノは2個、19回優勝のACミランは1個のステラを付けています（2023-24シーズン終了時点）。
セリエAの歴史は非常にダイナミックな変化を経てきました。1950年代から90年代前半にかけては、ユヴェントス、ミラン、インテルといった「ビッグ3」を頂点に、中堅クラブ、そして地方クラブである「プロヴィンチャ」からなる「三階建て」構造が特徴でした。ビッグクラブはプロヴィンチャから主力選手を獲得し、プロヴィンチャは選手の移籍金で運営資金を確保するという相互依存関係が成り立っていました。地域ごとの結びつきも強く、選手移籍が活発に行われ、この構造がリーグの基盤となっていたと言えます。しかし、フィオレンティーナからユヴェントスへの移籍は特に「禁断の移籍」と呼ばれ、激しいサポーターの反発を招くこともありました。
1990年代中盤に入ると、衛星有料放送の普及によるサッカーのビジネス化やボスマン判決による外国人選手枠の撤廃など、カルチョの国際化が急速に進みました。これにより従来の「三階建て」構造は崩壊し、代わりにユヴェントス、ミラン、インテルのビッグ3に加え、ローマ、そして豊富な資金力で台頭したラツィオ、フィオレンティーナ、パルマを含む「セブン・シスターズ」と呼ばれるグループがリーグを牽引しました。新興クラブは大型補強で優勝争いに加わり、特に1999-2000シーズンにはセブン・シスターズが上位を独占するなど、その力を見せつけました。しかし、過剰な投資による経営の綻びが露呈し、サッカーバブルが崩壊すると、ビッグ3を除くクラブは財政難に苦しむことになります。フィオレンティーナは2002年に破産、ラツィオやパルマも巨額の負債を抱え経営破綻寸前に追い込まれ、ローマも多額の負債を抱えるなど、セブン・シスターズの構図は短命に終わりました。
2000年代半ば以降、経営難に陥ったクラブは再建の道を歩み始め、かつて没落した中堅クラブもセリエAに復帰し、再び「三階建て」に近い構造が形成されつつありました。しかし、その最中に2006年のカルチョ・スキャンダルが発生。ユヴェントスはセリエBへ降格し、ミランなどにも処分が下されました。この影響で、インテルや、再建を経て力をつけたローマ、ナポリがリーグの中心となりました。しかし、この事件は観客数の減少や国内の選手育成の停滞を招き、リーグ全体のレベル低下や代表チームの弱体化にも繋がったと言われています。
2010年代に導入されたFFP規則は、リーグの勢力図を大きく塗り替えました。それまで多くのクラブがオーナーの資金で赤字を補填していましたが、FFPによりこれが困難になったため、経営方針の見直しが迫られました。特にオーナー依存が高かったインテルとミランはFFPの影響を強く受け、主力選手を放出して経営を立て直そうとした結果、戦力が低下しリーグ中位に低迷しました。一方、親会社からの支援があり、自前のスタジアムを所有していたユヴェントスはFFPの影響を比較的受けにくく、経営面での優位性を活かして2011-12シーズンから2019-20シーズンまで、セリエA史上前人未到の9連覇を達成しました。
しかし近年、かつてFFPの影響で低迷したミラノの2大クラブが復権を果たしています。オーナー交代とフロント陣の刷新によりチーム強化が進み、2020-21シーズンにはインテルが、翌2021-22シーズンにはミランがそれぞれスクデットを獲得し、2季連続で両クラブがリーグのトップ2を占めました。
現在のセリエAは20クラブによって争われ、各チームがホームとアウェーで2度ずつ対戦する年間38試合のリーグ戦形式で行われます。勝ち点は勝利で3、引き分けで1、敗北で0が与えられ、シーズン終了時の勝ち点合計で順位が決まります。勝ち点が並んだ場合は、当該チーム間の直接対決の成績が優先されます。欧州カップ戦にはUEFAランキングに応じた枠が与えられ、通常UEFAチャンピオンズリーグに4枠、UEFAヨーロッパリーグに3枠が割り当てられます（うち1枠はコッパ・イタリア優勝枠）。一方、リーグ下位3チームはセリエBへ自動降格となります。財政問題によるプロライセンス剥奪があった場合は、セリエC以下への降格もあり得ます。過去にはフィオレンティーナ（2002年）やパルマ（2015年）が財政破綻により複数カテゴリー降格を経験した例があります。
出場停止規定では、警告累積が4回に達すると1試合の出場停止となり、その後は3回、2回、1回と累積に必要な回数が減るサイクルが続きます。1試合中に2枚の警告で退場となった場合も原則翌試合出場停止ですが、悪質性が低い場合は適用されないこともあります。外国人選手の登録については、EU圏内の選手は無制限ですが、EU圏外選手の新規登録は原則年間2名までと定められています。
観客動員数は欧州主要リーグの中でも上位に位置し、2016-17シーズンには平均2万2千人以上を記録しました。一方で、過去にはサポーターによる暴動が深刻な問題となり、2007年には警察官が死亡する痛ましい事件が発生し、リーグ戦の一部が中止や無観客試合となった歴史もあります。
このように、セリエAは栄光と困難が入り混じる激動の歴史を経てきました。近年は伝統的な強豪が力を取り戻し、再び競争が激化しています。独自の戦術や文化、そして情熱的なサポーターに支えられ、今なお多くのサッカーファンを魅了し続けています。
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