セルフレベリング

セルフレベリングとは

セルフレベリングとは、自動車において、乗員や荷物の積載による荷重の変化、あるいは路面の状況によって車体の高さ（地上高）が変動した際に、サスペンションシステムがこれを自動的に検知し、あらかじめ定められた基準の高さに修正・維持する機能です。これは、車両の姿勢変化を最小限に抑え、常に安定した走行性能と快適な乗り心地を保つことを目的としています。

目的と必要性

車両は、乗車人数が増えたり、重い荷物を積載したりすると、その重みでサスペンションのスプリングが圧縮され、車高が沈み込みます。また、前後の荷重バランスが変化することで、車両の姿勢が崩れることもあります。このような車高や姿勢の変化は、ハンドリング特性、制動時の挙動、ヘッドライトの光軸、さらには最低地上高の変化による悪路走破性などに影響を与え、走行安定性や安全性を損なう可能性があります。セルフレベリング機構は、これらの影響を抑制し、車両が常に設計通りの理想的な状態に近い姿勢を保つことで、予期せぬ挙動の変化を防ぎ、安定した快適な走行を実現するために不可欠な機能と言えます。

基本的な仕組みとエネルギー源

車高が基準よりも下がった状態から、車体を元の高さまで持ち上げるためには、外部からのエネルギー供給が必要です。例えば、車体の重さ（位置エネルギー）を利用して下げることは容易ですが、逆に持ち上げる際には何らかの動力が働かなくてはなりません。そのため、セルフレベリング機能を持つサスペンションシステムは、必ずエネルギー源を備えています。油圧システムであれば高圧を発生させるポンプと圧力を蓄えるアキュムレーター、空気圧システムであればエアコンプレッサーと圧縮空気を蓄えるタンクなどがそれに該当します。このような、外部からのエネルギー供給によって車高や減衰力を積極的に制御するサスペンションシステムは、一般的にリアクティブ・サスペンションとも呼ばれます。

具体的なシステム

セルフレベリング機能は、様々なサスペンションシステムで採用されていますが、特に以下の方式が代表的です。

1. 油圧式（ハイドロニューマチック、ハイドラクティブなど）

シトロエンなどで広く採用されたハイドロニューマチックサスペンションや、その進化形であるハイドラクティブサスペンションは、セルフレベリング機能を特徴としています。

仕組み: 車体の沈み込みを検知すると、油圧ポンプによって加圧された作動油が高圧アキュムレーターから供給され、サスペンション内部のシリンダーに送られます。シリンダー内の油量が増加することで、車体を押し上げ、基準の車高に調整します。車高が高すぎる場合は、シリンダー内の作動油をリザーバータンクに戻すことで車高を下げます。
制御: 典型的な機械式システムでは、前後それぞれに「ハイトコレクターバルブ」と呼ばれる弁が設けられています。このバルブは、サスペンションアームの動きに連動する長いロッドなどの機械的なリンク機構によって操作されます。車高の変化に応じてロッドが動き、バルブが開閉することで、高圧油圧ライン、リザーバータンクへのライン、サスペンションシリンダーへのラインの間の油圧の流れが制御されます。通常、各車輪に独立したセンサーやバルブを設けるのではなく、車両全体や前後軸の平均的な車高を検知する仕組みが取られます。
電子制御: より高度なハイドラクティブシステムでは、機械式リンクの代わりに電子的な車高センサーが用いられます。センサーからの情報はセンターコンピューターで処理され、速度やステアリング操作などの情報も加味して、電子制御式の高圧油圧バルブを精密に開閉することで、よりきめ細やかな車高制御を行います。
エネルギー源: このシステムは、エンジンによって駆動される油圧ポンプによって加圧された作動油を、高圧アキュムレーターに蓄えることでエネルギーを確保しています。アキュムレーター内の圧力が不足している状態では、車高を修正することはできません。

2. 空気圧式（エアサスペンション）

現代の多くの高級車や一部のSUV、商用車などで採用されているエアサスペンションも、セルフレベリング機能を備えています。

仕組み: 車高センサーが車体の高さの変化を検知すると、エアコンプレッサーで生成された圧縮空気が、エアバッグ（空気ばね）に供給されたり、排出されたりします。エアバッグ内の空気量（容量）を変化させることで、車体を支える力が調整され、車高が一定に保たれます。
制御: 車高センサーの情報を基に、電子制御ユニット（ECU）がコンプレッサーの作動や、エアバッグへの空気供給・排出を制御するバルブの開閉を指示します。油圧式と同様に、前後軸や各車輪の車高を独立して制御できるシステムもあります。
エネルギー源: エンジンや電動モーターで駆動されるエアコンプレッサーによって生成される圧縮空気がエネルギー源となります。

搭載例

多くのセルフレベリングシステムは、前後軸全体の車高を調整しますが、コストや構造の簡略化のため、特に積載による後軸荷重の変化が大きいトラックやバン、SUV、一部の乗用車などでは、リアサスペンションのみにセルフレベリング機能が搭載される例も多く見られます。

セルフレベリング