セロ弾きのゴーシュ (1953年の映画)

『セロ弾きのゴーシュ』は、宮沢賢治の同名童話を原作とした1953年公開の日本映画です。人形劇を撮影した作品で、「日本初の長編・総天然色・人形劇・音楽映画」として宣伝されました。当時としては画期的な試みが多く、撮影には35ミリミッチェルカメラが使用されました。しかし、当時の技術では、人形の撮影に適したカラーネガがなく、日本初のコニカラーネガが使用されました。撮影は、狛江市の工場を仮設スタジオとして行われ、冷房設備のない中で、人形の撮影と音楽制作が行われました。撮影後には、伊福部昭氏の指揮するオーケストラが生演奏を録音し、チェロは井上頼豊氏が担当しました。

しかし、完成したフィルムは、音声と映像のずれや、日ごとの退色が問題となりました。ニュープリントを作成しても結果は同じで、1年かけて完成したにも関わらず、ネガとプリントの両方が著しく退色してしまいました。このため、本作は「幻のフィルム」とも呼ばれるようになりました。35ミリミッチェルで撮影された事実は、当時の撮影風景の写真から明らかになっています。現存するフィルムは、16mmのさくらカラーで5巻のみとなっています。ソフト化はされておらず、上映される機会もほとんどありませんでしたが、2011年には神戸映画資料館で上映されました。

映画の制作は1953年3月に決定し、森永監督がカメラと照明を、川尻泰司氏が人形劇部分を監督しました。助監督の髙橋克雄氏は、自由にカメラアングルを決められることを喜びましたが、人形の装置やバレ隠しに苦労しました。人形美術は、当初は人形劇団プーク美術部が担当しましたが、後に山田三郎氏らプーク出身者が加わり、最終的な人形デザインは山田氏がメインとなりました。撮影は、ジューキミシンの工場施設を借りて行われ、利光貞三氏も美術スタッフとして参加しました。劇中で使用された「インドのとらがり」や「愉快な馬車屋」などの楽曲は伊福部昭氏が作曲し、「第六交響曲」にはベートーヴェンの「田園」が用いられました。演奏は、チェロの井上頼豊氏と、東京フィルハーモニー交響楽団によって行われました。この映画の制作が、人形劇団プークがテレビ放送の草創期から番組制作に関わるきっかけとなり、後のスタジオ・ノーヴァへと繋がっていきました。

これらの情報は、髙橋克雄氏の『戦後メディア映像史』や、髙橋氏が所有する写真、日記などに基づいています。

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