ゼーブルッヘ襲撃

ゼーブルッヘ襲撃作戦：第一次世界大戦における英独海軍の死闘

1918年4月、第一次世界大戦下の激戦地ベルギーにて、イギリス海軍による大胆な作戦「ゼーブルッヘ襲撃」が実行されました。この作戦の目的は、Uボートの主要基地として機能していたベルギーの主要港、ゼーブルッヘ港を無力化することでした。隣接するオーステンデ港も同様の攻撃目標とされていました。

作戦の背景

ゼーブルッヘ港への攻撃は、1917年にジョン・ジェリコー提督によって最初に提案されました。しかし、ゼーブルッヘ港は堅牢なドイツ軍の要塞によって守られており、従来の戦艦やモニター艦による砲撃では効果が限定的でした。Uボートの退避施設であるUボート・ブンカーの完成も、艦砲射撃作戦の成功を阻む要因となりました。

そこで、ロジャー・キーズ少将は、港湾入り口の閉塞という斬新な作戦を提案しました。この作戦は1918年2月に海軍本部によって承認され、キーズ少将自らが指揮官として、駆逐艦、魚雷艇、コルベットなど多様な艦艇160隻以上からなる艦隊を率いて作戦を実行しました。艦隊には、モニター艦4隻と港湾閉塞用の閉塞艦8隻が含まれていました。

襲撃作戦の実行

4月22日深夜、ゼーブルッヘ襲撃作戦が開始されました。まず、防波堤への陽動攻撃が行われました。掃海艇による煙幕とモニター艦による砲撃、そして旧式防護巡洋艦ヴィンディクティヴと2隻のフェリーによる攻撃が展開されました。ヴィンディクティヴはブルージュ運河への海兵隊上陸も計画していましたが、風向き変化による煙幕効果の消失と激しいドイツ軍の反撃を受け、作戦は難航します。

ヴィンディクティヴは砲撃を受け、突堤の外に止まることを余儀なくされ、海兵隊は孤立無援の状態に陥りました。しかし、魚雷艇などの小型艦艇は港内に突入し、ドイツ艦艇や港湾施設への攻撃を開始しました。ゼーブルッヘ港は激しい砲火と砲煙に包まれ、大混乱に陥りました。潜水艦C3は橋の破壊に成功し、艦長はヴィクトリア十字勲章を受章しました。

しかし、3隻の旧式巡洋艦を港の中央水路に沈める計画は失敗に終わりました。防波堤への攻撃の失敗により、閉塞艦は激しい砲撃を受け、計画された位置に沈められませんでした。日付が23日になる頃、キーズ少将は作戦の継続による被害拡大を危惧し、撤退を命令しました。夜明けにはイギリス艦隊は完全に撤退していました。

作戦の結果と評価

閉塞艦は適切な位置に沈められず、運河を数日間塞いだだけに終わりました。ドイツ軍は、閉塞艦付近の埠頭を撤去し、新たな水路を開削することで、潮位の高い時間帯には潜水艦の通行を可能としました。沈没した艦艇も大半が浅瀬に着底した程度で、3ヶ月以内に修復されました。鉄橋の修復も迅速に行われました。

ゼーブルッヘ襲撃は、連合国の宣伝によってイギリスの勝利と喧伝され、8個のヴィクトリア十字勲章が授与されました。しかし、作戦参加者1700名中300名が負傷、200名以上が戦死する大きな犠牲を払った作戦でもありました。ヴィンディクティヴは続くオーステンデ襲撃作戦にも参加しましたが、この作戦も失敗に終わり、ヴィンディクティヴは損失しました。ゼーブルッヘ襲撃は、その勇猛さと犠牲にもかかわらず、戦略目標を達成したとは言い難い作戦であったと言えるでしょう。

参考文献

Pitt, Barrie. Zeebrugge. New York: Ballantine Books Inc., 1959.
三野正洋/古清水政夫著 『死闘の海・第一次世界大戦海戦史』　新紀元社、2001年

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