ソユーズ33号

ソユーズ33号は、1979年に行われたソビエト連邦による有人宇宙飛行ミッションです。軌道上を周回する宇宙ステーション「サリュート6号」へのドッキング、およそ1週間の滞在、そしてステーション乗組員の地球帰還に用いる新しいソユーズ宇宙船の残置を主な目的として計画されました。

搭乗員

このミッションには2名の宇宙飛行士が搭乗しました。

船長：ニコライ・ルカビシュニコフ
宇宙飛行士：ギオルギー・イワノフ（ブルガリア人民共和国出身）

特筆すべきは、船長のニコライ・ルカビシュニコフがソビエトの宇宙船で初めて民間人として船長を務めた人物であること、そしてギオルギー・イワノフはブルガリア人として初めて宇宙空間に到達した人物であることです。これはインターコスモス計画の一環として実施されました。

バックアップクルーとしては、船長にユーリ・ロマネンコ、宇宙飛行士にアレクサンドル・アレクサンドロフが指名されていました。

飛行の経緯

当初、打ち上げは予定されていましたが、発射地点が暴風に見舞われたため2日間延期されました。その後、1979年4月10日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地からソユーズ33号は打ち上げられ、目標であるサリュート6号へ向け飛行を開始しました。

サリュート6号まで約9kmの距離に接近したところで、自動ドッキングシステム「Igla」が作動しました。宇宙船がステーションから1000mの距離まで迫ったとき、主要な推進エンジンに異常が発生。計画では約6秒間の燃焼を予定していましたが、実際にはわずか3秒で自動的に停止してしまいました。この時、船内では強い衝撃が発生し、ルカビシュニコフ船長は計器パネルが動かないよう手で押さえる必要があったほどです。

地上管制官との協議の後、ドッキングシステムを再起動してエンジンの再燃焼を試みましたが、エンジンは再び停止。サリュート6号からソユーズ33号の様子を観測していた宇宙飛行士ワレリー・リューミンは、エンジンの噴射中に通常とは異なる水平方向への光が見えたと報告しました。

この事態を受け、地上管制はミッションの中止を決断。乗組員にサリュート6号へのドッキングを断念し、地球への帰還準備に入るよう指示しました。これはソユーズ宇宙船が軌道上で推進システムに不具合を起こした初めての事例となりました。

エンジン故障と危機

その後の調査で、エンジンの故障は燃焼室内の圧力センサーが通常以下の圧力を検知し、爆発を防ぐためにエンジンを緊急停止させたことが原因であると推測されました。乗組員は帰還のためにエンジンの再点火を強く求めましたが、地上管制はこれを認めず、休憩を取るよう指示しました。この時、ルカビシュニコフ船長はアメリカの小説家マーティン・ケイディンの作品『宇宙からの脱出』で描かれた、宇宙に立ち往生する宇宙飛行士の状況を思い浮かべ、眠ることができなかったといいます。

ソビエト当局がこのミッションの深刻さを公に認めたのは、事故から4年後の1983年になってからでした。ソユーズ33号にはバックアップエンジンが搭載されていましたが、主要エンジンの故障によってバックアップエンジンも損傷している危険性が拭えませんでした。もしバックアップエンジンが使用不能だった場合、帰還は極めて困難になります。高度制御スラスタを用いて軌道速度を減らす方法も検討されましたが、十分な推進剤があるかは不明瞭であり、成功したとしても正確な着陸地点を予測できませんでした。また、サリュート6号をソユーズに接近させて乗員を移乗させることも考えられましたが、既にサリュートにドッキングしていたソユーズ32号もソユーズ33号と同じ型のエンジンを搭載しており、信頼性に疑問があったため、これらの選択肢は現実的ではありませんでした。最も実現可能性が高い選択肢は、バックアップエンジンの点火に全てを賭けることでした。

地球への帰還

バックアップエンジンによる帰還を決断したものの、この方法にもリスクがありました。計画通りの燃焼時間は188秒ですが、90秒未満の燃焼では軌道上で身動きが取れなくなります。90秒以上燃焼すれば手動での調整も可能ですが、着陸地点の精度は失われます。そして、188秒より長く燃焼した場合は、大気圏再突入時に乗組員に過大な加速度がかかることになります。最良の選択肢であっても、成功は保証されていなかったのです。

結果として、バックアップエンジンは計画より25秒長い213秒間燃焼しました。これによりソユーズ33号は通常よりもはるかに鋭い弾道軌道を描いて大気圏に突入。乗組員は一時的に最大10Gにも達する過酷な加速度に耐えなければなりませんでした。厳しい状況下でしたが、ニコライ・ルカビシュニコフとギオルギー・イワノフの両名は無事に地球への帰還を果たしました。これはソビエトの公式報告によると、ソユーズ1号以来2度目の弾道軌道での帰還でした（ただし、ソユーズ18a号やソユーズ24号も同様であったとする説もあります）。

影響と調査

ソユーズ33号のミッション失敗は、サリュート6号に既にドッキングしていたソユーズ32号にも影響を及ぼしました。ソユーズ32号もソユーズ33号と全く同じ型のエンジンを搭載していたため、ステーションに滞在していた乗組員が地球へ安全に帰還する手段が失われた可能性が出てきたためです。

この事態を受け、後続の有人宇宙飛行計画は一旦全て中止されました。ソユーズ33号のエンジン故障原因を徹底的に調査するためです。およそ1ヶ月に及ぶ調査の結果、故障した部分は過去8000回以上の地上試験で問題がなかった箇所であり、ソユーズのエンジン自体も1967年以来2000回近くの飛行で使用されてきて一度も失敗がなかったことが判明しました。しかし、安全確保のため、ソユーズ33号の故障したエンジンは回収され、新たに再設計されたエンジンを搭載した無人のソユーズ宇宙船、ソユーズ34号が代替機としてサリュート6号へ緊急に送られ、ステーションの乗組員が帰還できるよう準備されました。この一件は、ソビエトの宇宙計画において、予期せぬ技術的トラブルがミッション全体に及ぼす影響と、それに対する対応の重要性を改めて浮き彫りにする出来事となりました。

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