ソユーズTM-1

ソユーズTM-1（ロシア語: Союз ТМ-1、英語: Soyuz TM-1）は、1986年に旧ソビエト連邦によって実施された無人宇宙飛行ミッションです。これは、その後のソビエト、そしてロシアの有人宇宙開発を長きにわたり支えることになる新型宇宙船、「ソユーズTM」シリーズにとって、歴史上初めての軌道上での試験飛行でした。

新型宇宙船の開発と試験目的

ソユーズTM型宇宙船は、それまで主に「サリュート」宇宙ステーション計画などで運用されてきたソユーズT型の後継機として開発されました。当時のソビエトは、恒久的な宇宙ステーション「ミール」の建設を進めており、ソユーズTMは、この新しい宇宙の拠点への乗員輸送や物資補給を担う主要な手段となるべく設計されました。ミールはモジュール方式で拡張され、長期滞在や頻繁な往来が想定されていたため、ソユーズTMには信頼性の向上に加え、ペイロード（積荷）能力の増加、そして特に宇宙ステーションとの自動ドッキングといった先進的な運用能力が求められました。

ソユーズTM-1ミッションの第一の目的は、これらの新型システムが実際の宇宙環境で設計通りに機能するか、特に軌道上での飛行特性や、宇宙ステーション「ミール」との結合・運用能力を無人の状態で確認することにありました。

飛行の経過詳細

ソユーズTM-1として軌道に投入された機体は、ソユーズ7K-STMという内部形式名称を持ち、その総重量は6450キログラムでした。この飛行は無人で行われ、クルーは搭乗していませんでした。

1986年5月21日、ソユーズTM-1はカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から、実績のあるソユーズU2ロケットによって宇宙へと打ち上げられました。軌道に乗った宇宙船は、一連のシステムチェックと軌道修正を行った後、当時の宇宙開発の最前線であった宇宙ステーション「ミール」へと接近しました。打ち上げからわずか2日後の5月23日、ソユーズTM-1は無人制御システムによって、ミールとの自動ドッキングを成功させました。これは、将来のミールへの輸送において不可欠となる自動ドッキング技術の有効性を示す重要な一歩でした。

ドッキング後、ソユーズTM-1はミールに結合した状態で約1週間にわたり滞在しました。この期間、機体の主要なシステム、宇宙ステーションとの電力や情報のやり取り、結合状態での軌道制御能力などが広範にわたって試験されたと考えられます。ドッキング解除（アンドッキング）は、ミールから離れる形で5月29日に実施されました。その後、宇宙船は地球への帰還軌道に移行し、打ち上げからおよそ9日後の5月30日には、計画通りに地上への帰還を果たしました。試験飛行としてのデータ収集を終え、ミッションは成功裏に完了しました。

ミッションの成果とその後の影響

ソユーズTM-1の無人試験飛行の成功は、ソユーズTM型宇宙船が実用に足る性能と信頼性を持っていることを証明しました。特にミールとの自動ドッキング能力の実証は、その後のミール計画における乗員交代や物資補給を効率的に行う上で極めて重要でした。この試験飛行の結果を受けて、ソユーズTMは速やかに有人飛行へと移行し、ミール宇宙ステーションの建設、運用、維持に不可欠な「生命線」としての役割を果たすことになります。ソユーズTMは、ミール計画の終焉まで運用されただけでなく、その設計思想は受け継がれ、国際宇宙ステーション（ISS）時代においても改良型のソユーズ宇宙船が現在に至るまで、世界中の宇宙飛行士にとって主要な輸送手段の一つであり続けています。ソユーズTM-1は、現代の宇宙輸送を支えるソユーズシリーズの、その長い歴史の第一歩を記した、まさに記念碑的なミッションでした。

ミッション要約

機体: ソユーズ7K-STM
重量: 6450 kg
クルー: 無人
打上げ: 1986年5月21日
帰還: 1986年5月30日
主な目的: ソユーズTMの飛行・システム試験、ミールとの自動ドッキング試験

参考文献

Mir Hardware Heritage (NASA report, wikisource)

ソユーズTM-1