ソユーズTM-5

ソユーズTM-5ミッション

ソユーズTM-5は、ソ連（現ロシア）の宇宙ステーション『ミール』への人員輸送と、一部乗員の地球への帰還を担ったソユーズミッションです。このミッションは、ミールへの5回目の長期滞在クルーの交代サイクルに関連しており、特に国際協力と宇宙船の運用における重要な教訓を残しました。

乗組員

ソユーズTM-5は、打上げ時に以下の3名を乗せて宇宙へと向かいました。

アナトリー・ソロフィエフ宇宙飛行士（初の宇宙飛行）
ヴィクトル・サヴィヌイフ宇宙飛行士（3回目の宇宙飛行）
アレクサンドル・アレクサンドロフ宇宙飛行士（初の宇宙飛行、ブルガリア出身）

アレクサンドロフ宇宙飛行士は、ブルガリア人としては2人目の宇宙飛行士であり、ソ連の宇宙ステーション、特にミールに到達した初のブルガリア人となりました。彼は、1979年のソユーズ33号でサリュート6号へのドッキングに失敗した際にバックアップを務めており、今回のミッションで念願の宇宙滞在を実現しました。

帰還時の乗組員は以下の2名でした。彼らはソユーズTM-6でミールに到着したメンバーです。

ウラジーミル・リャホフ宇宙飛行士（3回目の宇宙飛行）
* アブドゥルアフド・ムハンマド宇宙飛行士（初の宇宙飛行、アフガニスタン出身）

ミッションハイライト

ソユーズTM-5は1988年6月7日に打ち上げられました。当初の予定より2週間遅れての打上げとなりましたが、これはミールに滞在中のアレクサンドロフ宇宙飛行士が行う「Rozhen astronomical experiment」に必要な、特定の照明条件が整うのを待つためでした。

打上げの2日後、1988年6月9日にソユーズTM-5は無事ミール宇宙ステーションにドッキングしました。アレクサンドロフ宇宙飛行士はミールでの実験や活動に参加し、ミッションを遂行しました。

帰還時のトラブル

ミッションを終えたウラジーミル・リャホフ宇宙飛行士とアブドゥルアフド・ムハンマド宇宙飛行士は、1988年9月5日にソユーズTM-5に乗ってミールを離れ、地球への帰還を開始しました。

通常の帰還シークエンスでは、軌道モジュールを分離した後、軌道離脱のための噴射を行います。彼らも手順通りに軌道モジュールを放棄し、軌道離脱噴射の準備を進めました。しかし、ここで予期せぬ重大な問題が発生しました。

宇宙船のガイダンスコンピュータには、帰還する乗組員だけでなく、地上管制センター（コロリョフ市のツープ）にも知らされない形で、6月のブルガリア人ミッションのために使用されたドッキングソフトウェアの設定が誤って残されていたのです。さらに、軌道離脱に必要な適切な高度を赤外線水平センサーが認識できなかったため、予定されていた軌道離脱噴射が定められた時刻に行われませんでした。

予定時刻から約7分後、センサーがようやく適切な高度を確認し、メインエンジンが自動的に点火されました。しかし、事態の異常を察知したリャホフ宇宙飛行士は、点火からわずか3秒後に手動でこれを中断しました。

約3時間後、2度目の軌道離脱噴射が試みられましたが、これも6秒しか続きませんでした。さらに、リャホフ宇宙飛行士が手動での軌道離脱を試みましたが、これも60秒後にコンピュータによって強制的に停止させられてしまいました。宇宙船は軌道上で立ち往生し、乗組員は生命の危機に瀕しました。

危機からの脱出と帰還

この絶望的な状況を打開するため、リャホフ宇宙飛行士は冷静沈着な判断と卓越した技術を見せました。宇宙史家ジェームズ・オーバーグ氏の著書『Secrets of Soyuz』によれば、彼は自動降下プログラムを再起動させるために、コンピュータの設定を変更し、最初に行われた3秒間の短い噴射を成功した軌道離脱燃焼として認識させるように操作したといいます。

この機転により、宇宙船は正常な再突入シークエンスを開始することが可能となりました。乗組員の適切な対応と、システムの予期せぬ振る舞いを理解し制御する能力によって、ソユーズTM-5は危機を脱しました。

ソユーズTM-5の降下モジュールは、1988年9月7日に無事地球大気圏へ再突入し、成功裏に着陸を果たしました。

その後の運用変更

この帰還時の異常事態は、ソ連のソユーズ運用において重要な教訓となりました。この事故以降、ソユーズ宇宙船の帰還ミッションでは、軌道離脱のためのメインエンジン噴射が完了するまで、軌道モジュールを分離しないという運用へと手順が変更されました。これにより、万が一軌道離脱に失敗した場合でも、軌道モジュールのバッテリーやシステムを利用して、再度の軌道離脱を試みるための時間や能力を確保できるようになりました。

ソユーズTM-5ミッションは、宇宙飛行の危険性と共に、困難な状況下における乗組員の判断力とシステムの信頼性の重要性を示す事例として、宇宙開発の歴史に記録されています。

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