ソングス・オブ・エクスペリエンス (U2のアルバム)

ソングス・オブ・エクスペリエンス (Songs of Experience)

アイルランドが生んだ世界的ロックバンド、U2の通算14枚目のスタジオアルバムとして、2017年12月1日にリリースされました。

概要

本作は、2014年に発表された前作『U2%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0'>ソングス・オブ・イノセンス)』とテーマ的に対をなす作品です。前作の発表時点で既に楽曲の約70%が完成していると示唆されていましたが、その後の制作は遅延に見舞われます。主な要因として、リードシンガーであるボノが自転車事故で腕に重傷を負ったことや、それに伴う「Innocence + Experienceツアー」の開催などが挙げられます。さらに、イギリスのEU離脱（Brexit）やドナルド・トランプ氏のアメリカ大統領就任といった世界的な政治・社会情勢の大きな変動を受け、アルバムの内容を深く問い直す必要が生じたため、当初予定されていた発売時期が延期されました。

ボノ自身は詳細を明らかにしていないものの、作品内容には自身が経験した、生死に関わる可能性のある健康上の問題が強く反映されていると語っています。アイルランドの詩人であり小説家でもあるブレンダン・ケネリーからの「自分が死んだかのように書きなさい」という助言に触発され、「自分がこの世を去った後に向けたラブレター」というコンセプトで、家族やファン、そして自分自身に対する想いを込めて楽曲が制作されました。

ゲスト参加

アルバムには様々な分野のアーティストがゲストとして参加しています。特に注目されるのは、ラッパーの[ケンドリック・ラマー]]で、彼はアルバムの4曲目と5曲目の間に配置されたインタールード部分に参加しています。U2は彼のアルバム『[ダム (Damn))』収録曲「XXX」にフィーチャリング参加しており、両者の交流が伺えます。このほか、レディ・ガガ、ジュリアン・レノン、そして女性トリオバンドのハイムが参加しています。

アートワーク

アルバムのジャケット写真は、長年にわたりバンドのビジュアルを手掛けてきた写真家、アントン・コービンによって撮影されました。写っているのは、ボノの息子イーライ・ヒューソンと、ギタリストのジ・エッジの娘サイアン・エヴァンスが互いに手を取り合っている姿です。特にサイアンは、U2の初期のアルバムジャケットに登場した少年が被っていたような特徴的なヘルメットを身につけており、バンドの歴史と Innocence（無垢）のテーマを象徴する要素が盛り込まれています。

商業成績と記録

『ソングス・オブ・エクスペリエンス』は、アメリカのビルボード200チャートで初登場1位を獲得しました。これはU2にとって8枚目の全米チャート首位獲得となります。この快挙により、U2は1980年代、1990年代、2000年代、そして2010年代と、4つの異なる年代で全米アルバムチャートのトップに立った史上初のグループという歴史的な記録を打ち立てました。ソロアーティストとしては、これまでにバーブラ・ストライサンド、ブルース・スプリングスティーン、ジャネット・ジャクソンといった著名なアーティストが同様の記録を達成しています。

収録曲（一部解説）

本作に収録された楽曲の中から、いくつか特筆すべきものについて解説します。

ラヴ・イズ・オール・ウィ・ハヴ・レフト (Love Is All We Have Left): アルバムのオープニングを飾るこの曲は、元々は2009年のアルバム『ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン』のアウトテイクでした。かつてボノは「ブロードウェイ風」や「フランク・シナトラのようだ」と表現したことがあります。ボノはこの曲の冒頭の歌詞「Nothing to stop this being the best day ever」をU2のアルバムの中で最も気に入っている出だしだと語り、「Seven billion stars in her eyes...」の部分にはInnocenceがExperienceを意識している様子が現れていると解説しています。また、「Love and love is all we have left...」のフレーズは、月にいるフランク・シナトラになったつもりで歌ったとしています。批評家からはThe XXやBon Iverに似ているとの声もありました。

サマー・オブ・ラヴ (Summer Of Love): シリア難民問題をテーマにした楽曲の一つです。ボノとジ・エッジが南フランスのエズで休暇を過ごしていた際に、目の前の地中海で命がけで避難してくる人々がいる現実を知り、そのインスピレーションから生まれたとされています。しかし、ボノ自身は単なる戦争に関する曲ではなく、「頭上に暗雲が立ち込めるような、少し不穏な雰囲気を持つロマンチックな曲」として構想したと述べています。バックコーラスにはレディー・ガガと、この曲のプロデューサーでもあるライアン・テダー（OneRepublic）が参加。ライアン・テダーは2022年に自身のバンドの楽曲「Weast Coast」でこの曲をサビ部分でサンプリングしています。複数のアーティストによる多様なリミックスも制作されました。

レッド・フラッグ・デイ (Red Flag Day): この曲も「Summer of Love」と同様に、シリア難民問題に触発されて書かれました。南フランスの海岸での経験が制作のきっかけとなった背景は共通しています。

ザ・ショウマン（リトル・モア・ベター）（The Showman (Little More Better)）: この楽曲は、ボノがオーディエンス、つまり聴衆に向けて書いたメッセージソングです。パフォーマーとしての自身を茶化すような視点から、「ステージ上の人間をあまり鵜呑みにしすぎるべきではない」というユーモア交じりの警告のような内容を含んでいます。

ザ・リトル・シングス・ザット・ギヴ・ユー・アウェイ (The Little Things That Give You Away): 制作過程でタイトルや形が変化していった楽曲です。元々は2004年のアルバム『ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』のセッション期に「Lead Me In The Way I Should Go」というタイトルで存在し、その後「The Morning After Innocence」と改題され、最終的にこのタイトルに落ち着きました。歌詞の内容は、Innocence（無垢）だった頃の自分自身との対話を描いています。アルバムリリースに先駆け、2017年5月に行われた「The Joshua Tree 2017ツアー」のバンクーバー公演で初めてライブ演奏され、本作収録曲としては最初に公に披露された楽曲となりました。また、アルバム発売後の同年12月には、ロサンゼルス郊外で録音された別バージョンが、マーヴィン・ゲイのカバーとともに音楽配信サービスSpotifyで公開されています。

ランドレディ (Landlady): この曲は、「ベスト・シング」などと同様に、ボノが妻のアリに向けて書いた、一種の「手紙」のような楽曲です。「Landlady」とは「女将」や「家主」といった意味ですが、これはバンドがブレイクする前の下積み時代に、アリが家賃を負担してくれていたことに由来するボノからアリへの愛情のこもったニックネームとされています。

* 13（ゼア・イズ・ア・ライト）（13 (There is A Light)）: アルバムを締めくくる楽曲です。この曲では、前作『Songs of Innocence』に収録されていた「ソング・フォー・サムワン」のメロディラインと歌詞の一部が意図的に再利用されており、二つのアルバムが密接に関連していることを示唆しています。

※収録曲リストは割愛しています。日本盤および海外デラックス盤にはボーナストラックが追加収録されています。

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