ソー・アジェナ

ソー・アジェナ (Thor-Agena)

ソー・アジェナは、アメリカ合衆国が開発・運用した衛星打ち上げロケットシステムです。既存の弾道ミサイルであるソーロケットを第1段として用い、開発されたばかりのアジェナステージを第2段に組み合わせた二段式ロケットとして構成されました。名称の「アジェナ」は、ケンタウルス座にある恒星β星の別名に由来します。

開発と初期の運用

ソー・アジェナの開発は、アメリカが宇宙空間を利用した偵察能力を求めていた冷戦期に始まりました。最初の打ち上げ試みは1959年1月に行われましたが成功せず、記念すべき初成功は、その翌月の1959年2月28日に打ち上げられたディスカバラー1号の軌道投入によって達成されました。この成功は、後の宇宙開発における様々な応用への道を開くものでした。

主な用途

ソー・アジェナは、その運用期間を通じて、主に軍事および情報収集目的の衛星打ち上げに利用されました。特に、1959年6月から1968年1月にかけて、アメリカ中央情報局（CIA）が極秘に進めた偵察衛星計画「コロナ」において、その中心的な役割を担いました。多数のコロナ偵察衛星がソー・アジェナによって宇宙に送り出され、上空からの写真撮影により、冷戦下の東西両陣営の情報格差を埋める上で極めて重要な貢献をしました。例えば、1962年には年間24回という高い頻度でソー・アジェナが打ち上げられ、その一部が当時の人工衛星監視システムの一部として運用されていたことも、現在では知られています。

また、ソー・アジェナは軍事用途だけでなく、科学衛星の打ち上げにも利用されました。顕著な例としては、1962年にソー・アジェナBによって打ち上げられた、カナダ初の人工衛星であるアルエット1号が挙げられます。アルエット1号は電離層の研究に大きな成果を上げました。

派生型

ソー・アジェナには、アジェナステージの改良に伴い、いくつかの派生型が存在します。

ソー・アジェナA: シリーズ最初の実用型です。1959年1月21日から1960年9月13日までに合計16回打ち上げられました。この型で打ち上げられたディスカバラー14号は特に重要で、1960年8月19日、偵察衛星が撮影したフィルムカプセルを軌道上から分離し、航空機（C-119）によって空中回収することに成功しました。これは、人工衛星からの情報（フィルム）回収の世界初成功例であると同時に、衛星軌道から帰還した物体を空中回収した初の事例でもあり、偵察衛星の実用化に向けたブレークスルーとなりました。

ソー・アジェナB: ソー・アジェナAの改良型で、アジェナステージの性能が向上しました。最初の打ち上げ成功は1960年11月12日のディスカバラー17号でした。1966年5月15日の気象衛星ニンバス2号の打ち上げがこの型の最後の運用となりました。前述のカナダのアルエット1号もこの型で打ち上げられています。

* ソー・アジェナD: シリーズ後期の主力型です。1962年6月28日に最初の打ち上げが行われ、1968年1月17日の打ち上げをもってソー・アジェナシリーズ全体の運用が終了しました。主にコロナ計画の後期ミッションなどで多くの偵察衛星を軌道に投入しました。

結論

ソー・アジェナは、約10年間の運用期間において、冷戦期のアメリカの情報収集活動を支える上で不可欠な役割を果たしました。特にコロナ計画における偵察衛星の打ち上げ実績は特筆に値します。また、軌道からの物体回収技術など、その運用を通じて培われた技術は、その後の有人宇宙飛行や様々な宇宙ミッションにも応用され、宇宙開発史における重要な一歩を記しました。

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