ゾンダーコマンド・エルベ

ゾンダーコマンド・エルベ：ドイツ空軍の体当たり攻撃部隊

ゾンダーコマンド・エルベ（Sonderkommando Elbe）は、第二次世界大戦末期にドイツ空軍が編成した、体当たり攻撃を目的とした特殊部隊です。連合国軍、特にアメリカ第8空軍によるドイツ本土への戦略爆撃が激化する中、その爆撃を阻止、あるいは妨害するために編成されました。「エルベ特別攻撃隊」や「エルベ特攻隊」とも呼ばれます。

歴史的背景

神風特別攻撃隊のニュース

1944年、ドイツ国内で日本の神風特別攻撃隊（カミカゼ）に関する報道がなされました。ドイツ空軍大佐ハヨ・ヘルマンは、以前から爆撃機対策としての体当たり攻撃を構想しており、カミカゼ戦法の情報を駐独大使から収集。ヘルマンは、日本側の戦果には懐疑的でしたが、最後の手段として体当たり攻撃を検討しました。

当初、空軍総司令官ヘルマン・ゲーリングやアドルフ・ヒトラーは、この戦術に否定的でした。ゲーリングは「ゲルマン的な戦い方ではない」と発言したとされます。しかし、ヘルマンは物資不足とジェット機の有用性を訴え、「体当たり攻撃で爆撃を遅らせ、ジェット機生産の時間を稼ぐ」と主張し、最終的にゲーリングの承認を得ました。ヒトラーは作戦承認の際、「体当たり攻撃は命令ではなく、あくまで自由意志で行われるべき」と強調しました。

一部からは、これらの高官の態度は人道的な懸念ではなく、無責任な臆病さの表れだと批判されています。

編成

1944年末から1945年初頭にかけて、各地の空軍部隊から志願者が募集されました。生還率は10%とされていましたが、防諜上の理由から「自己犠牲的任務」という言葉は使われず、部隊名も「エルベ教育課程」とされました。

1945年3月24日、シュテンダール・ボルステル飛行場に約300人の志願者が集められ、任務内容が改めて説明された上で、辞退も認められました。しかし、多くの隊員がゾンダーコマンド・エルベに残留することを選択。オットー・ケーンケ少佐の指揮のもと、教育と訓練が行われました。

部隊に残った隊員の多くは若い飛行士で、実戦経験者はごくわずかでした。階級に関係なく、隊員同士は親しみを込めて呼び合っていました。食事は当時のドイツの状況を考えると非常に豪華で、将官向けの備蓄品が提供され、肉やパンなどが好きなだけ食べることができ、コーヒーや葉巻などの嗜好品も提供されました。

隊員には、標的となるB-17やB-24爆撃機の構造や弱点、体当たり攻撃の方法などが講義されました。また、士気を高めるためのプロパガンダ映画も上映されました。しかし、燃料不足と機体の遅延により、実機を用いた飛行訓練はほとんど行われませんでした。

特攻機

ヘルマンは、ゾンダーコマンド・エルベに配備する戦闘機としてBf109を選びました。エンジンの長さが衝撃を吸収し、機体の形状が敵機に大きな打撃を与えると判断したためです。ヘルマンは2,000機を調達予定でしたが、最終的に200機程度しか集まりませんでした。

特攻機からは機銃、照準器、防弾板、無線送信機などが取り外され、機首のMG131機銃のみが残されました。弾薬も少量に制限されていました。脱出用の射出座席は残されていましたが、それでも90%の隊員が死亡すると予想されていました。隊員には、遺書作成も許可されました。

ヘルマンの計画では、まずMe262戦闘機が敵爆撃機編隊を崩し、その後にゾンダーコマンド・エルベの特攻機が攻撃を行う予定でした。

1945年4月7日の大空襲

1945年4月7日、アメリカ軍は大規模なドイツ本土爆撃を実施。ゾンダーコマンド・エルベも迎撃に参加しました。

特攻機の無線からは、隊員を鼓舞するために愛国歌やスローガンが流れました。アメリカ側もこの通信を傍受しています。

体当たりに成功した機はごくわずかで、多くは撃墜されるか不時着を余儀なくされました。約180機のうち、離陸に成功したのは約150機、実際に戦闘に参加したのは約100機とされます。脱出した隊員は、降下中にアメリカ軍戦闘機に銃撃されることもありました。部隊に戻った生存者はわずか15名でした。

ドイツ軍は「60機以上の爆撃機を撃墜した」と報告しましたが、アメリカ軍は「17機が撃墜され、うち8機が体当たりによるもの」と報告しています。

ゾンダーコマンド・エルベは、その効果への疑問から4月17日に解散しました。

戦後

ツェレ市にはゾンダーコマンド・エルベの記念碑が建てられ、元隊員による戦友会も存在しました。2005年には、部隊の元隊員や、攻撃を受けた側の元アメリカ・ソ連軍パイロットへのインタビューをまとめたドキュメンタリー映画が公開されました。

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