タイロス1号

タイロス1号 (TIROS-1) - 世界初の気象衛星

タイロス1号は、アメリカ航空宇宙局（NASA）によって開発・運用された画期的な人工衛星です。1960年4月1日、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から宇宙へと旅立ったこの衛星は、気象観測を主目的とした人工衛星としては世界で初めての事例となりました。その開発および運用には、アメリカ国防総省も協力体制を敷いています。

設計と目的

タイロス1号は、高度およそ700キロメートルから753キロメートルの軌道上から、気象に関するテレビ画像を収集する技術の実現可能性を評価することを主眼に設計されました。これは、それまで地上や航空機から行われていた気象観測に、人工衛星という新たな手段が加わることを意味し、その後の気象予報や気候研究に計り知れない影響を与える第一歩でした。

衛星の構造と機能

機体は高さ約0.48メートル、直径約1.1メートルの円筒形状で、総重量は約122キログラムでした。衛星の底部には観測用のカメラが設置されていました。電力供給は、本体表面に装備された約9200枚の太陽電池セルでバッテリーを充電することで行われ、持続的な運用を可能にしました。

搭載された観測機器は主に以下の通りです。

テレビカメラ: 可視光領域を捉えるカメラが2台搭載されていました。一つは広範囲を捉える視野角104度の広角カメラ、もう一つは特定の領域を詳細に観測する視野角12度の望遠カメラです。
磁気記録装置: 撮影された画像データは、地上局との通信ができない領域でも観測を継続できるよう、搭載された2台の磁気テープ記録装置に一時的に保存された後、通信可能になった時点で地上局へ送信されました。

特に、搭載された光学機器の一つには、後にNavitarとして知られるElgeet Optical社製のものが使用されていました。具体的には、8mm F1.5の超広角レンズを備えたカメラが使用され、約10秒間隔で宇宙から地球の気象を捉えるスロースキャン撮影を行ったとされています。このカメラとレンズの組み合わせは、わずか約2キログラムという軽量設計でありながら、高度約1200キロメートル（約750マイル）という高みからでも、十分な鮮明さを持つ画像を捉えることができました。

運用実績と成果

タイロス1号は、当初計画されていた期間からは短縮された約78日間の運用となりましたが、この短期間に驚異的な成果を上げました。運用期間中に合計22,952枚もの地球の気象画像を地上へ伝送することに成功し、人工衛星を用いた気象観測が現実的であることを明確に証明したのです。この成果は、先に打ち上げられたヴァンガード2号によって示唆されていた可能性を具体的に実証するものであり、その後の気象衛星シリーズや、より広範な地球観測衛星の開発へと道を開きました。

地球を周回する軌道は、高度約693キロメートルから750キロメートルの範囲を、約99分の周期で、軌道傾斜角48.4度で飛行しました。

後世への影響と展示

タイロス1号の成功は、衛星による気象観測という新たな時代の幕開けを告げるものであり、その後の気象予報の精度向上に大きく貢献しました。現在、タイロス1号の実機（または重要な構成要素）と、地上試験用に製造されたタイロス2号の試作機は、ワシントンD.C.にあるスミソニアン航空宇宙博物館に展示されており、その歴史的な功績を伝えています。特にタイロス2号の試作機には、Elgeet Navitarレンズが衛星底面から突き出した状態で確認できます。

タイロス1号は、現代の高性能な気象衛星や地球観測衛星の礎を築いた、宇宙開発史における重要なマイルストーンと言えるでしょう。

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