タッシェン

タッシェン：美術書の革命家

1980年、ベネディクト・タッシェンによって設立されたタッシェンは、ドイツを拠点とする世界的に有名な出版社です。当初は漫画コレクションの出版からスタートしましたが、現在では美術、建築、デザイン、写真集など、幅広いジャンルの書籍を発行しています。特に、他の大手出版社が敬遠しがちな、セクシュアル・マイノリティ、フェティシズム、歴史的なエロティカといったテーマにも果敢に挑戦し、それらの題材を芸術文化の一環として積極的に世に送り出している点が大きな特徴です。

タッシェンの書籍は、その価格帯とデザインの多様性においても際立っています。レオナルド・ダ・ヴィンチの全作品を収録したような大判で豪華な美術書から、1冊10ドル程度の小型で手軽な『アイコン・シリーズ』まで、多様なラインナップを提供することで、幅広い層の読者を引き付けています。『アイコン・シリーズ』は、ラスベガスやネバダ州のレトロな広告、男性ヌード写真集など、ニッチなテーマを扱った作品も含まれており、その多様性はタッシェンを象徴する特徴です。また、廉価版ながら高品質な『タッシェン・ベーシック・アート・シリーズ』や『タッシェン・ベーシック・アーキテクチャー・シリーズ』では、ミケランジェロからノーマン・ロックウェル、フランク・ロイド・ライトまで、時代や作風を超えた多様なアーティストの作品を紹介しています。

一方で、タッシェンは、出版史上最も高価な書籍のいくつかを発行したことでも知られています。その代表例として挙げられるのが、『GOAT (Greatest of All Time)』です。75ポンド（約34キロ）という驚異的な重さ、700ページにも及ぶボリューム、そして15,000ドルという価格で、ドイツのシュピーゲル誌は「これまでに出版されたものの中で最も大きく、最も重く、最も光輝いている書籍」と評しました。他にも、ヘルムート・ニュートンの回顧展作品集『Sumo』（15,000ドル）や、荒木経惟の限定版写真集（4,000ドル）など、高価格帯ながらコレクターズアイテムとしての価値も高い書籍を多数出版しています。

タッシェンは、単なる出版社の枠を超え、アートとデザイン、そして文化そのものを発信する存在となっています。革新的で美しいデザインの書籍を大衆的な価格で提供するという理念は、美術書の世界に大きな影響を与え、多くの人々にアートへのアクセスを容易にしました。その存在は、アートの民主化に大きく貢献していると言えるでしょう。

世界各国に展開するタッシェンの旗艦店は、そのブランドイメージを象徴する空間です。ベルリン、ビバリーヒルズ、ブリュッセル、ケルン、コペンハーゲン、ハンブルク、ロサンゼルス、ロンドン、マイアミ、ニューヨークシティ、パリなど、世界主要都市に店舗を構え、それぞれの都市の文化と調和した洗練された空間で、書籍や関連グッズなどを販売しています。これらの旗艦店は、単なる販売場所ではなく、アートとデザインの文化発信拠点としての役割も担っています。

タッシェンは、その大胆なテーマ選定、多様な価格帯、そして世界規模での展開を通じて、美術書のあり方を変え、アートをより身近なものにしてきました。今後も、革新的な出版活動を続けることで、アートシーンをさらに豊かにしていくことでしょう。

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