タティングレース

タティングレース：結びで紡ぐ繊細な美の世界

タティングレースは、シャトルと呼ばれる小さな舟形の糸巻きを使って、結び目を作ることで生まれるレースの技法です。タッチングレース、シャトルレースとも呼ばれます。

歴史：古代から現代へ

タティングの起源は古代エジプトに遡るとも言われますが、装飾的なレース技法としての明確な起源は不明です。一説には、16世紀のイタリアで基礎的な技法が確立されたと考えられています。

初期のタティングは、リングとループを別々に編む手法が用いられていました。その後、ネット用針の使用や、編みながらリングを繋ぐ技法が開発され、金属製のフックが用いられるようになりました。

タティングレースは、他のレース編みに比べて大掛かりな道具を必要としないため、17～18世紀には移動中の手芸として広まりました。イングランド女王メアリー2世も熱心な愛好家であり、庶民的な手芸ではないかと揶揄されたという逸話も残っています。1707年の英国の詩には、メアリー女王がタティングに興じる様子が記録されています。

手元を見なくても作れる手軽さから、18～19世紀には貴族の間で広く普及し、教養として習得されました。女性のエレガントな趣味として捉えられ、シャトルを装飾品として持ち、肖像画に描かれることもありました。

1850年頃には、英国のリーゴがピコット部分で編み繋ぐ方法を考案し、かぎ針を使った繋ぎ方を解説した指導書と図案集を出版し、国際的な賞を受賞しました。1864年には、リーゴの著書でチェイン（鎖編み）が紹介されています。

ディルモントは、複数のシャトルを使った多色使いのタティングや、ジョセフィンノットを「ニードルワーク百科」で紹介しました。1870年代には、ミセス・ビートンがシャトルへの糸の巻き方や、玉巻き糸を使ったタティングを紹介し、パターンブックを出版しました。

ルーマニアのマリー王女は、タティングの図案と技術を数多く考案しました。彼女は、宝石を編み込んだ作品を修道院に寄付しましたが、それは自身の宝石が夫の愛人の手に渡るのを防ぐためだったという逸話も残されています。

日本への伝来

日本には、明治初期に西洋の手芸と共にタティングレースが伝わりました。大正から昭和初期にかけては、穴糸を使ったショールや袋物などが作られました。

国際標準記号

タティングレースには、世界共通の記号が用いられています。図案を読む際には、これらの記号を理解することが重要です。

まとめ

タティングレースは、古代から現代まで、世界中で愛されてきた繊細なレース技法です。シャトルと糸があれば、場所を選ばずに楽しむことができます。その歴史と技法を学び、あなたもタティングレースの世界に足を踏み入れてみませんか。


参考文献
藤戸禎子『タッチングレース　小さなシャトルで作り出す華やかな模様』株式会社　日本ヴォーグ社、1989年、ISBN 4529015076
藤戸禎子『華麗なクラシックレース　タッチングレース』株式会社　日本ヴォーグ社、1995年、ISBN 4529025330
* 聖光院有彩『NHKおしゃれ工房　タティングレース』日本放送出版協会、2000年、ISBN 4140311029

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