タナカノリユキ

タナカ ノリユキ

1959年生まれのタナカ ノリユキ氏は、日本のクリエイティブシーンを牽引する多才な人物です。アーティスト、クリエイティブディレクター、アートディレクター、映像ディレクターとして活動し、自身の会社であるタナカノリユキアクティビティを率いています。特に、ユニクロのクリエイティブディレクターとしての功績は広く知られています。

初期経歴とアート界への登場

東京都立三鷹高等学校、そして東京芸術大学美術学部デザイン科を経て、1985年に東京芸術大学大学院美術研究科修士課程を修了しました。在学中からその才能は注目され、第5回日本グラフィック展奨励賞や第2回JACA展特別賞を受賞。日比野克彦氏らとともに、グラフィックアートにおける「芸大旋風」を巻き起こし、デザイン・グラフィック界のトップランナーとしての地位を早期に確立しました。

多様な表現と実験的な取り組み

タナカ氏の活動は、グラフィック、ドローイング、映像、パフォーマンス、インスタレーション、空間・環境造形と非常に多岐にわたります。80年代後半からは、国内外での個展やグループ展、プロジェクト、レクチャーなどを通じてアートワークを発表。同時に、インタラクティブアートやサイエンスミュージアムの開発・設計、プロダクト・空間デザインにも携わりました。

特に注目されるのは、1984年の現代美術家ヨーゼフ・ボイスの初来日時に、学生有志による「ボイスと学生の対話集会」の企画運営実行委員を務めたこと。また、1986年には輸送用コンテナを移動ギャラリーとする「竹芝コンテナプロジェクト」を試み、1987年にはオーストラリアの砂漠でアボリジニーのアーティストと共同制作を行うなど、実験的かつ国際的なアート活動を展開しました。この時期、キース・ヘリングとも出会い、彼のSwacthデザイン発表会場の壁画制作にも関わっています。

1989年に開催された初の個展「GOKAN-都市の深層」では、INAXギャラリーとギンザ・グラフィック・ギャラリーの2会場を同時使用するという斬新な手法を取り、アート作品を美術館やギャラリーだけでなく、クラブ空間にも常設展示するなど、アートの概念の拡張を積極的に試みました。この「GOKANプロジェクト」は、その後も海外のギャラリーで開催されるなど展開されていきます。

アートとサイエンスの融合

1992年からは、知覚心理学者の下條信輔氏との共同でアート&サイエンスのプロジェクトを開始しました。1993年には「現実の条件/Explore Reality」展を開催するほか、月刊プレイボーイ誌上での対談シリーズ「アート&サイエンス」連載、さらには科学技術館やカンサスシティ・サイエンス・ミュージアムなど国内外のサイエンスミュージアムに共同開発によるコミッションワークを設置するなど、科学と芸術の融合を探求しました。この協力関係は続き、1997年から2011年にかけては、「未来身体」をテーマにしたワークショップ「ルネッサンスジェネレーション」を共同監修し、2011年には対論集『サバイバルマインド』を出版しています。

映像ディレクターとしての功績

1994年にはピーター・グリーナウェイ監督の映画「グリーナウェイの枕草子」で美術を手掛けたことを契機に、映像ディレクターとしても本格的に活動を開始。金沢21世紀美術館などの展示映像、さらにはBRAHMAN、MISIA、ゆず、DREAMS COME TRUEなど、幅広いジャンルのミュージシャンのミュージックビデオを数多く手掛けています。

広告・ブランディング分野での影響力

タナカ氏の活動が広く一般に知られるきっかけの一つとなったのは、1997年のNIKE「Just do it.」キャンペーンにおけるTV-CMディレクションです。盲目のアスリートを起用したこのCMは国内外で数々の賞を受賞し、大きな話題を呼びました。このCMは、パラリンピックの認知度向上や、オリンピック・パラリンピック日本代表のユニフォーム統一に繋がるなど、社会的な変革をもたらす契機ともなりました。これを機に、タナカ氏はアーティスト活動と並行して広告制作にも深く関わるようになります。

特に、1999年から2007年にかけて、そして2019年からもユニクロのクリエイティブディレクターを務めた期間の功績は顕著です。東証一部上場を控えた時期から参画し、数々のヒット広告や革新的なマーケティング戦略を展開。売上高の驚異的な成長とブランドイメージの向上に貢献しました。2000年のフリースブームでは、当時異例の2600万枚という販売数を記録し、社会現象を巻き起こしました。タナカ氏のユニクロでの手法は「ユニクロ手法」として広告業界内外で語られるほど有名になりました。

他にも、2006年から2011年にはソニー・エリクソンの、2007年からは資生堂（国内・グローバル）、2016年からはPOLAの広告キャンペーンやブランディングを手掛け、先進的で話題性の高いクリエイティブによって、製品だけでなく出演者のブランドイメージ向上にも貢献しています。国内外の多数の企業のCI、ブランディング、商品開発なども手掛けるなど、その活動範囲は広大です。

アート作品と受賞歴

アーティストとしては、「100 ERIKAS」のようなインスタレーション作品も手掛けており、東京都現代美術館での展示や、オーストリアのNew Ars Electronica Centerに常設展示されるなど、高い評価を得ています。

受賞歴も非常に豊富で、日本グラフィック展奨励賞、JACA展グランプリ、東京ADC賞、ACC賞、アジアンパシフィック広告賞など、キャリアを通じて数々の賞を獲得しています。

人物と現在の活動

意外な一面としては、高校時代は本気でサッカー選手を目指しており、アマチュアチームに所属するほどの実力を持っていました。

現在は、自身のアーティスト活動を続けながら、グラフィック、プロダクト、空間、環境のデザイン、建築の企画開発、パフォーマンスの演出、映像のディレクション、そして広告、CI・ブランド、商品開発、文化関連事業におけるアートディレクション、クリエイティブディレクションなど、多岐にわたる分野で国際的に活躍しています。

また、朝日広告賞やグッドデザイン賞、ベストデビュタント賞などの審査委員も歴任しており、後進の育成やデザイン・アート業界の発展にも貢献しています。

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