ダイレクト・デジタル・シンセサイザ

ダイレクト・デジタル・シンセサイザ（DDS）とは

ダイレクト・デジタル・シンセサイザ（Direct Digital Synthesizer, DDS）は、単一の固定された発振源を基に、デジタル処理によって任意の波形や周波数を生成する電子回路です。この技術は、ファンクションジェネレータ、ミキサー、変調器、音源シンセサイザなど、多岐にわたる応用分野で利用されています。

DDSの基本構成

DDSの基本的な回路は、以下の要素で構成されています。

制御装置: 回路全体の動作を制御します。
RAM (メモリ): 生成する波形の振幅データを格納します。
基準周波数源: 通常は水晶発振器が用いられ、回路の基準となる周波数を提供します。
カウンタ (フェーズアキュムレータ): 位相を累積し、メモリのアドレスを生成します。
DAコンバータ (DAC): デジタルデータをアナログ信号に変換します。

DDSの動作原理

DDSの動作は、大きく分けて「プログラミング」と「実行」の2つのステップからなります。

プログラミングステップ

1. 制御装置は、生成したい波形の振幅データをメモリに書き込みます。各データは、瞬時における信号の振幅を示す2進数で表されます。
2. メモリに格納されたデータの列は、波形の振幅テーブルを形成します。テーブル内の位置（メモリのアドレス）が時間軸に対応します。
3. 例えば、テーブルの前半にゼロ、後半に最大値を格納すると、方形波が生成されます。また、データを変更することで、正弦波やその他の任意の波形を生成することも可能です。
4. 一部のDDSデバイスでは、正弦波や限られた種類の波形のみを出力するようにプリセットされているものもあります。

実行ステップ

1. 基準周波数源からの各パルスごとに、フェーズアキュムレータ（位相カウンタ）は、一定の増分値だけ進むように指示されます。
2. フェーズアキュムレータの出力（位相）は、メモリ内の対応するデータを選択するために使用されます。
3. 選択されたデータは、DACによってアナログ波形に変換され、出力されます。
4. 周期的な波形を生成するために、メモリ上のデータが一周する時間と波形の周期が一致するように設定されます。
5. 例えば、基準周波数が1MHzで、メモリに1000個のデータがある場合、テーブルが一周するのに1ミリ秒かかり、出力波形の周波数は1kHzとなります。
6. 位相の増分量を増やすと、メモリの走査速度が速まり、より高い周波数を生成できます。位相増分量を調整することで、出力周波数を正確に制御できます。
7. 位相増分量の調整によって、出力周波数を微調整できます。例えば、増分量を10に設定した場合、増分量を11にすると周波数が10%速くなり、9にすると周波数が10%遅くなります。より高精度な周波数制御には、より多くのビット数のフェーズアキュムレータが必要です。

実装の詳細

実際の実装では、メモリのサイズは通常2のべき乗で構成され、フェーズアキュムレータは32ビットで動作します。一般的に、フェーズアキュムレータの上位8ビットまたは10ビットはメモリのインデックスとして使用されます（それぞれメモリサイズは256または1024となります）。

残りの下位ビットは、メモリ内の隣接する値を補間するためのパラメータとして使用されます。直線補間が用いられることが多いです。発振源には通常、1MHzから100MHzの水晶発振器が使用されます。

DDSで生成できる最高周波数は、メモリのサイズと発振源の周波数に依存します。また、波形を正確に生成するために、メモリから最小限のデータを選択する必要があります。位相の増分量が大きすぎると、カウンタがテーブルを高速に走査し、出力信号の歪みが大きくなる可能性があります。

DDSはソフトウェアまたはハードウェアで実装できます。リアルタイム処理が必要なため、ソフトウェアでの実装は通常、オーディオ帯域以下の周波数に限定されます。

DDSの応用例

DDSは、以下のような様々な応用分野で利用されています。

ファンクションジェネレータ
ミキサー
変調器
音源シンセサイザ

関連項目

数値制御発振器 (NCO, Numerically-controlled oscillator)

参考文献

文献

Tierney, J., Rader, C.M., and Gold, B. "A Digital Frequency Synthesizer," IEEE Transactions on Audio and Electroacoustics AU-19:1, March 1971, 48-56

書籍

Goldberg, Bar-Giora, Digital Techniques in Frequency Synthesis, New York: McGraw-Hill, 1996. ISBN 0-07-024166-X

外部リンク

Direct and Indirect Frequency Synthesis in the 0.5–20GHz Frequency Range (Slides from a talk)
Direct Digital Synthesis Primer (Viewgraphs)
Tutorial on Digital Signal Synthesis (Essay)
Ph.D. Thesis: "High-Speed Digital and Mixed-Signal Components for X- and Ku-Band Direct Digital Synthesizers in Indium Phosphide DHBT Technology"
Another thesis on high speed DDS (French)
L. Cordesses, "Direct Digital Synthesis: A Tool for Periodic Wave Generation (Part 1)" IEEE Signal Processing Magazine, DSP Tips & Tricks column, pp. 50-54, Vol. 21, No. 4 July 2004.
L. Cordesses, Direct Digital Synthesis: A Tool for Periodic Wave Generation (Part 2) IEEE Signal Processing Magazine, DSP Tips & Tricks column, pp. 110-117, Vol. 21, No. 5, Sep. 2004.
高性能DDSチップを使った正弦波発振器
秋月電子通商 DDSキット
「R8C/15付録マイコン基板活用企画　正弦波DDSの製作」, トラ技 2005年10月号

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