ダニエル・モレロン

ダニエル・モレロンは、1944年生まれのフランスの元自転車競技選手で、トラック競技、特にスプリント種目で傑出した成績を残しました。後にフランス自転車ナショナルチームのコーチを務め、数々のメダリストを育成したことでも知られています。レジオンドヌール勲章受章者でもあります。

アマチュア時代の輝かしい実績

モレロンはアマチュア時代からその才能を発揮し、1964年の東京オリンピックではスプリントで銅メダルを獲得しました。その後、1968年のメキシコオリンピック、1972年のミュンヘンオリンピックでは、いずれもスプリントで金メダルを獲得。1976年のモントリオールオリンピックでは銀メダルに終わったものの、オリンピックにおけるスプリント種目で確固たる地位を築きました。

メキシコオリンピックでは、ピエール・トランタンとのペアでタンデムスプリントでも金メダルを獲得し、二冠を達成しています。

世界自転車選手権アマチュア部門のスプリント種目では、1966年から1975年の間に計7回優勝。1966年にはトランタンとのペアでタンデムスプリントでも初代王者となっています。グランプリ・ド・パリなど、数々のタイトルも獲得しました。

特筆すべきは、モレロンがオリンピック開催年に世界自転車選手権に参加しなかった年があるにもかかわらず、参加した世界選手権では6連覇を達成している点です。オリンピックを含めると、世界大会で8年連続優勝という驚異的な記録を打ち立てました。この記録は、後に中野浩一が達成する世界選手権プロ・スプリント10連覇に匹敵すると言われています。

1977年に現役を引退し、翌年からはフランスナショナルチームのコーチに就任しました。

プロ選手としての現役復帰と中野浩一との対決

コーチとして活動していたモレロンでしたが、1980年の世界自転車選手権が地元フランスのブザンソンで開催されるにあたり、プロ選手として現役復帰を果たします。当時、プロスプリントで3連覇中だった中野浩一に対抗できるのはモレロンしかいないという期待が寄せられたためです。モレロン自身も、中野の指導経験があり、手の内を知り尽くしているという自負がありました。

地元開催の世界選手権で、モレロンはケイリンで銀メダルを獲得。スプリント準決勝では、ついに中野との直接対決が実現しました。中野は、かつて第一線を退いたモレロンを打ち負かすという強い決意でレースに臨み、結果としてモレロンは中野の圧倒的な力の前に敗れました。3位決定戦で勝利し銅メダルを獲得したものの、モレロンは中野には勝てないと悟り、大会終了後に現役引退を表明しました。

この大会で中野は優勝し、その後、世界選手権プロ・スプリント10連覇という偉業を達成しました。モレロンを破った中野に対し、フランス国内では敬意を込めて「ムッシュ」と呼ばれるようになったというエピソードも残っています。

コーチとしての手腕

再びコーチ業に専念したモレロンは、ヤーベ・カールやフィリップ・ベルネといった選手を育成し、中野浩一へのリベンジを託しましたが、いずれも中野に敗れています。

1990年にはフランス首席コーチ（トラックレース短距離部門）に就任。指導した選手が1996年アトランタオリンピック、2000年シドニーオリンピックの女子スプリントで金メダルを獲得した他、1995年から1999年まで世界自転車選手権の500メートル・スプリントで二冠を達成したフェリシア・バランジェなど、数多くのオリンピック、世界自転車選手権メダリストを輩出しました。

ダニエル・モレロンは、選手として、そしてコーチとして、フランス自転車界に多大な貢献を果たした人物として、その名を歴史に刻んでいます。

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