ダフニ・デュ・モーリエ

ダフネ・デュ・モーリエ：ミステリアスな才能と波乱の人生

ダフネ・デュ・モーリエ（1907年5月13日-1989年4月19日）は、20世紀を代表するイギリスの小説家です。アルフレッド・ヒッチコック監督による映画化で世界的に知られる『レベッカ』や『鳥』の原作者として名高い彼女は、恋愛小説を多く手掛けながらも、ハッピーエンドとは無縁の、時に超常現象的なニュアンスを含む独特の世界観で読者を魅了しました。批評家たちからは当初真剣に評価されませんでしたが、巧みな構成力と心理描写で高い評価を得るようになり、多くの作品が映画化されるなど、大きな成功を収めました。

華麗なる一族と豊かな幼少期

ロンドン生まれのデュ・モーリエは、名優ジェラルド・デュ・モーリエと女優ミュリエル・ボーモントを両親に持ち、作家で風刺漫画家として知られるジョージ・デュ・モーリエを祖父に持つ芸術一家に育ちました。姉は作家、妹は画家と、芸術に秀でた才能は家族の中で脈々と受け継がれていました。幼い頃から舞台俳優など多くの著名人と出会い、豊かな刺激の中で育ちました。こうした環境が、後の創作活動に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。

文学への道と初期の作品

家族の繋がりを活かし、初期の作品は母のつてで雑誌に掲載されました。1931年、初の小説『愛はすべての上に』を発表し、作家としてのキャリアをスタートさせます。その後も精力的に作品を発表し、『埋もれた青春』や『レベッカ』などの代表作で人気を博しました。これらの作品は、しばしばコーンウォールを舞台にしており、デュ・モーリエ自身も人生の大半をそこで過ごしました。

戯曲家としての才能

小説家としての活躍に加え、デュ・モーリエは3本の戯曲も執筆しています。最も有名なのは、『レベッカ』の戯曲化ですが、他にも『The Years Between』や『September Tide』など、高い評価を受けた作品を残しました。『September Tide』では、イギリス滞在中のエレン・ダブルデイをモデルに登場人物を創作するなど、私生活が作品に反映されている様子も伺えます。

家庭と隠遁生活

1932年、イギリス陸軍少佐と結婚し、2人の娘と1人の息子をもうけました。しかし、伝記作家によると、結婚生活は必ずしも円満ではなく、創作活動に没頭するにつれ、子供たちとの距離を置くこともあったようです。夫の死後、コーンウォールに転居し、ますます隠遁生活を送るようになります。インタビューを嫌がり、静かに絵を描く時間を好んだという記録が残されています。しかし、彼女が招いた客たちからは温かい人柄だったという証言も残されており、その複雑な内面の一端を垣間見ることができます。

隠された性的指向

デュ・モーリエの死後、ガートルード・ローレンスやエレン・ダブルデイとの関係などから、バイセクシャルであったのではないかという議論が巻き起こりました。伝記作家マーガレット・フォスターは、デュ・モーリエが少数の信頼できる人物にのみ性的指向を明かし、男性的な愛情を創作の原動力にしていたと主張しています。しかし、デュ・モーリエ自身は、社会的な偏見を恐れて、バイセクシャルであることを公に否定していた可能性も示唆されています。彼女の子供たちは、こうした主張に強く反論しています。

作品リスト

デュ・モーリエの作品は多岐に渡り、小説、戯曲、ノンフィクションなど、数多くの著作を残しています。代表的な作品として、以下が挙げられます。

小説:
『レベッカ』
『埋もれた青春』
『情炎の海』
『マイ・カズン・レイチェル』
『鳥』
『わが幻覚の時』

戯曲:
『レベッカ』
『The Years Between』
* 『September Tide』

その他:
彼女が幼少期に過ごした様子から、ジェームズ・マシュー・バリーがピーターパンの着想を得たという俗説がありますが、年代的に疑問符が残ります。

文化的影響

デュ・モーリエの作品は、映画化だけでなく、文学、演劇、そして現代文化にまで多大な影響を与え続けています。彼女の作品は、時代を超えて人々の心を捉え、新たな解釈を生み出し続けているのです。

結語

ダフネ・デュ・モーリエは、ミステリアスな魅力と、類まれな才能を兼ね備えた小説家でした。彼女の人生は、創作活動と私生活の複雑な絡み合い、そして隠された真実によって彩られています。彼女の作品は、今後も多くの読者、そしてクリエイターたちの心を魅了し続けることでしょう。

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