ダミー戦車

ダミー戦車の歴史と用途

ダミー戦車は、木製や膨張式の構造を持つ偽の戦車で、敵軍の誤認を狙ったり、訓練に利用されたりします。このデコイは、第一次世界大戦における戦車の普及とともに登場し、特に第二次世界大戦ではその使用が大幅に拡大しました。

第一次世界大戦での使用

第一次世界大戦中、連合軍はイギリスのマーク I 戦車を模してダミー戦車を作りました。これらは木製のフレームに黄麻布が覆われており、動かすことができなかったため、2頭の馬で牽引されて配置されました。ドイツ軍も非常に限られた数で本物の戦車を投入しましたが、連合軍が自軍の戦車を偽装するためのダミー戦車を作ることは確認されています。その中には、特に訓練目的で使われるものもありました。

第二次世界大戦中の展開

第二次世界大戦に突入すると、連合国や枢軸国の双方がダミー戦車を戦略的に多用しました。特にイギリス軍は、これを「スプーフス」と呼び、欺瞞作戦において重要な役割を果たしました。北アフリカ戦線では、イギリスの工兵部隊が1日あたり2両のペースでダミー戦車を製造し、連合軍の兵力を隠すために活用しました。

ダミー戦車の形状は、容易に展開できるように畳むことができ、ジープに搭載することでより効率的な使用が可能となりました。鋼製のフレームをキャンバスで覆ったこれらのダミーは、実際に戦車と同じ形状を持つため、高速で展開し、敵を欺く効果がありました。さらに、偽の履帯跡を作り出したり、実際の履帯跡を消去する装置が使用されるなど、多様な欺瞞手段が駆使されました。

膨張式のダミー戦車も、与圧式のラバーチューブに布を覆った構造で戦場での使用を意図していましたが、これらは突発的な事故や砲撃により、容易に破壊されてしまうリスクがありました。1944年の作戦で、イギリス軍は148両の膨張ダミー戦車を配置しましたが、その半数はドイツ軍の砲撃で破壊されました。

大規模な欺瞞作戦

ノルマンディー上陸作戦前のフォーティテュード作戦では、ダミー戦車が連合国の真の戦力を隠すために使用されました。この作戦では、連合軍の戦車数が多いと錯覚させることや、実際の上陸地点を誤認させることを狙っていました。しかし、偽装車は全体的な戦術の中であくまで一部分に過ぎず、実際にはドイツ軍の偵察活動が十分に行われていなかったため、効果は限定的でした。

イタリアのアンツィオでは、実際の戦車が使用中である場合に、膨張式のシャーマン戦車が用いられました。また、太平洋戦争中には日本軍がデコイを用い、米軍の包囲を試みた一例もあります。

現代の活用

現代の戦争では、ダミー戦車を使用した新たな戦術が展開されています。コソボ紛争では、ユーゴスラビア陸軍がダミー戦車を配置し、NATO軍を欺く効果を上げました。さらにアメリカ陸軍では、M1エイブラムスを模した先進的なダミー戦車が開発され、敵の攻撃を誘導し、敵軍の行動を遅延させることが可能です。このようなデコイは、コストを抑えつつ、高い効率を持っており、軽量で取り扱いやすいため、現代戦においてもその重要性は増しています。

ダミー戦車は、単なる兵器の一部にとどまらず、戦術的な思考や創意工夫を遂げた製品として、これまでの戦争の歴史に深く根ざしているのです。

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