ダンスセラピー

ダンスセラピーは、身体の動き、特にダンスの要素を治療的な目的で用いる心理療法の一種です。このアプローチは、より詳細にはダンスムーブメント・セラピー（D/MTと略されることが多い）とも呼ばれます。歴史的な背景を考慮すると、後者の名称が正式とみなされる傾向にあります。さらに英国では、心理療法としての性格を明確にするため、ダンス・ムーブメント・サイコセラピーという呼称も用いられています。名称は複数存在しますが、指し示す核となる内容は共通しています。

歴史と発展

ダンスセラピーの萌芽は、スイスの心理療法家であるティナ・ケラー・ジェニーが、分析心理学の理論に動きやダンスを取り入れた治療法を開発したことに見られます。これが、精神療法の領域における身体表現の活用という新たな流れを生み出す契機となりました。

特に、第一次世界大戦後に興隆したドイツ表現主義舞踊の影響は無視できません。ルドルフ・フォン・ラバンやマリー・ウィグマンといった先駆者のもとで学んだモダンダンスの舞踊家たちが、アメリカ合衆国へ移住しました。イルムガルト・バーテニーフ、フランツィスカ・ボアズ、リリアン・エスペナック、メアリー・ホワイトハウス、ガートルード・ゴッドウィン・バンゼルといった舞踊家たちは、精神的な困難を抱える人々へのダンス指導や関わりの中で、身体の動きが治療として有効である可能性を見出し、その研究と実践を深めていきました。

1950年頃からは、ティナ・ケラー・ジェニーが、ステージダンサーのトゥルーディ・スクープ、そして後にアメリカダンスセラピー協会（ADTA）の初代会長となるマリアン・チェイスと共に、重度の精神疾患を持つ人々に対するダンスの効果を検証しました。彼らの共同作業は、今日のダンスセラピーの基礎を確立する上で極めて重要であり、マリアン・チェイス、フランツィスカ・ボアズ、リリアン・エスペナック、メアリー・ホワイトハウス、トゥルーディ・スクープらは、この分野における先駆者として「ダンスセラピーの母親」と称されています。

アメリカで発展を遂げたダンスムーブメント・セラピーに関する詳細は、アメリカダンスセラピー協会（ADTA）から得ることができます。この療法は、当初は精神科の閉鎖病棟などでの実践を通じて発展しましたが、単に「ダンス」という概念に限定されず、運動、動作、姿勢といった身体全体の要素を幅広く含むことから、「ダンス/ムーブメント」という表記が用いられます。これは、健康体操や一般的な運動療法とは一線を画し、心身の統合を目指す広範な心理療法として位置づけられているためです。そのため、一部の地域では、医療分野で認められるセラピスト資格の一つとみなされることもあります。

日本における展開

ダンスセラピーは、芸術療法や表現芸術療法の一部門として捉えられることもありますが、絵画や音楽などの既存の芸術形式とは異なり、身体そのものを表現媒体とし、心と体を不可分なものとして扱うことで心身二元論を超克しようとする独自のアプローチという特性を持ちます。実践にあたっては、モダンダンスだけでなく、社交ダンス、ストリートダンス、ベリーダンス、暗黒舞踏など、様々なダンススタイルや身体表現の手法が応用されます。

日本へは、1980年代に舞踊家である芙二三枝子氏によって本格的に紹介されたとされています。

国内における主要な団体としては、日本ダンス・セラピー協会が存在します。同協会は、学術的な機関誌「ダンスセラピー研究」の発行を通じて研究活動を推進する一方、認定ダンスセラピスト、アソシエイト・セラピスト、ダンスセラピー・リーダーという段階的な資格認定制度を設けています。認定ダンスセラピスト資格は、実技試験に加え、広範な臨床経験、指定された科目の履修などの要件を満たすことで認定されます（ダンスセラピー・リーダーは基礎資格です）。

ダンスセラピーの実践領域は非常に広範にわたり、精神科や心療内科などのメンタルヘルス領域、障がい者福祉や高齢者ケアといった福祉・健康領域、学校教育、芸術表現の場など、多岐にわたる分野で活用されています。

なお、「ダンスセラピスト」という名称自体は一般的な呼称として誰でも自由に使用できますが、日本ダンス・セラピー協会の公式アイコンと共に使用される場合は、同協会の登録商標（登録第5028002号）となります。

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