ダヴィデとバテシバ (クラナッハ)

ダヴィデとバテシバ

[ルーカス・クラナッハ]によって1526年に描かれた油彩画『ダヴィデとバテシバ』は、旧約聖書「サムエル記下」に記された物語を題材としています。この作品は、英雄でありながら過ちを犯してしまうダヴィデ王と、その行為によって人生を翻弄されるバテシバの姿を描き出し、鑑賞者に様々な問いを投げかけます。

聖書の物語

物語は、ダヴィデ王が宮殿の屋上から、部下の妻であるバテシバが水浴している姿を目撃するところから始まります。ダヴィデはバテシバの美しさに心を奪われ、彼女を呼び出して関係を持ち、妊娠させてしまいます。自身の罪が露見することを恐れたダヴィデは、バテシバの夫であるウリヤを最前線に送り込み戦死させ、その上でバテシバを妻とします。この一連の出来事は、ダヴィデの権力濫用と倫理的な堕落、そして女性を巡る人間の欲望の深さを描いています。

絵画における表現

クラナッハは、この物語を自身の生きた時代の出来事として解釈し、当時の貴婦人を彷彿とさせる美しい女性としてバテシバを描いています。ダヴィデは宮殿の屋上からバテシバを見下ろしており、その視線は、権力者の持つ欲望と、それによって生じる罪を暗示しています。この構図は、中世において男性に対する教訓として広く語られた、女性の魅力がもたらす破滅的な力、あるいは女性の奸智に対する警告という解釈にも合致します。一方で、この主題は、女性の官能性を強調する形で、しばしば絵画化されてきました。

作品の背景

この絵画は、美術収集家であった君主のコレクション展示室のために制作された可能性が高いと考えられています。クラナッハは、この作品を通して、聖書の物語を単なる過去の出来事としてではなく、人間の普遍的な欲望と倫理的な葛藤を描き出そうとしたのかもしれません。作品は現在、ベルリン絵画館に所蔵されており、ルネサンス期の美術を代表する作品の一つとして高く評価されています。

まとめ

『ダヴィデとバテシバ』は、聖書の物語を題材としながらも、人間の欲望、権力、倫理といった普遍的なテーマを内包した作品です。クラナッハの卓越した筆致と、物語の多層的な解釈は、この作品を単なる歴史画としてではなく、鑑賞者に深い思索を促す芸術作品へと昇華させています。


参考文献
有川治男・重延浩・高草茂編集『NHK ベルリン美術館1 ヨーロッパ美術の精華』、角川書店、1993年刊行　ISBN 4-04-650901-5
大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行　ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク
* ベルリン絵画館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『ダヴィデとバテシバ』 (ドイツ語、英語)

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