チェスキー・クルムロフ

チェスキー・クルムロフ：中世の趣を残す世界遺産都市

チェコ共和国の南ボヘミア州に位置するチェスキー・クルムロフは、ヴルタヴァ川沿いに広がる中世の街並みが魅力の都市です。その歴史は古く、13世紀後半に始まったとされています。ボヘミア王国時代には、有力貴族ローゼンベルク家の支配を受け、手工業や交易が盛んになり、ルネサンス様式の建築物が数多く建てられました。特にウィルヘルム・フォン・ローゼンベルクの治世には、街は華麗なルネサンス都市へと変貌を遂げました。

しかし、ローゼンベルク家の財政難により、チェスキー・クルムロフは神聖ローマ皇帝ルドルフ2世、そしてフェルディナント2世の手に渡ります。フェルディナント2世は、三十年戦争での貢献を認め、エッゲンベルク家にこの街を与えました。この時代にはバロック様式の建築物が加わり、街の景観はさらに豊かになりました。その後、エッゲンベルク家の断絶により、シュヴァルツェンベルク家が町と城を相続し、城はバロック様式に改築され、現在も残る城内劇場が完成しました。

地理的な要因もあり、チェスキー・クルムロフでは古くからドイツ語が使用されてきました。ハプスブルク家の支配下では、チェコ語よりもドイツ語が優先される傾向がありましたが、19世紀のナショナリズムの高まりとともに、ドイツ系住民とチェコ系住民の関係は複雑化していきます。オーストリア＝ハンガリー帝国時代には、学校や図書館などもドイツ系とチェコ系に分離し、民族対立が顕著になりました。

第一次世界大戦後のチェコスロバキア成立により、チェスキー・クルムロフはチェコ領となり、公式名称も「クルマウ」から「チェスキー・クルムロフ」に変更されました。しかし、第二次世界大戦前にはナチス・ドイツによる併合、そして戦後にはベネシュ布告によるドイツ系住民の追放という苦難の歴史を経験します。この出来事は、チェスキー・クルムロフの社会構造に大きな影響を与え、街の荒廃にもつながりました。多くの住民が故郷を追われ、街は一時的に無人状態となる建物もありました。

共産主義時代には歴史的建造物が「封建時代の遺構」として価値を否定されるなど、街の修復は遅れました。1989年のビロード革命後、街の歴史的価値が再認識され、建造物の修復が急速に進み、1992年にはユネスコの世界遺産に登録されました。現在では、中世の街並みやクルムロフ城、城内劇場など、多くの観光客を魅了する観光地となっています。毎年6月には、「五弁のバラの祭典」という中世をテーマにしたイベントも開催され、街は活気に満ち溢れています。

チェスキー・クルムロフの見どころ

クルムロフ城: 街の規模をはるかに超える巨大な城で、1766年完成のバロック様式の劇場は特に有名です。精巧な舞台装置が当時のまま残されており、今でも使われています。
聖ヴィトゥス教会: 15世紀のフレスコ画が美しい教会。
エゴン・シーレ美術館: 20世紀初頭の表現主義画家、エゴン・シーレゆかりの美術館。
ズラター・コルナ修道院: クルムロフから10キロの場所にあるボヘミアでも有数の古い修道院。
フルボカー城: クルムロフから30キロ離れた場所にある12世紀に建てられた城（後世に改築）。
シュマヴァ国立公園: チェコ最大の国立公園の一つで、クルムロフからも近く、豊かな自然を楽しむことができます。

チェスキー・クルムロフの文化

チェスキー・クルムロフは、活気あふれる文化の中心地でもあります。毎年、様々なフェスティバルやイベントが開催され、中でも「五弁のバラの祭典」は有名です。この祭典では、街全体が中世の雰囲気に包まれ、職人や芸術家、音楽家などが中世の衣装を身につけ、街を盛り上げます。

登録基準

チェスキー・クルムロフは、ユネスコの世界遺産登録基準(4)「人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例」を満たして登録されました。

チェスキー・クルムロフは、その美しい景観と複雑な歴史を秘めた、魅力的な都市です。中世の趣を残す街並みを散策し、歴史に思いを馳せる旅は、忘れられない思い出となるでしょう。

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