チメク

韓国のソウルフード「チメク」：フライドチキンとビールの文化

韓国で広く親しまれている「チメク（치맥）」とは、フライドチキンとビールを一緒に楽しむ食文化のことです。韓国語の「チキン（치킨）」と「ビール（맥주/メクチュ）」を組み合わせた造語で、サムギョプサルと焼酎、チヂミとマッコリのような、定番の組み合わせとして定着しています。

チメク市場の現状

韓国におけるチメクの人気を示す指標として、チキンの専門店数の急増が挙げられます。2009年には26,156店だった専門店は、2018年には37,000店以上に増加し、年間売上高は2兆2,075億ウォンに達しました。さらに、チキン＆ビール専門店を含めると、2019年にはその店舗数は87,000店にも上り、日本のコンビニエンスストア数（58,340店）を上回っています。

多くのチェーン店はデリバリーサービスも提供しており、家庭でスポーツ観戦を楽しむ際にも、クリスピーなフライドチキンや甘辛いヤンニョムチキンなどを手軽に購入することができます。チキンにはカレーや蜂蜜など、様々なフレーバーが用いられており、消費者の好みに合わせた多様なバリエーションが提供されています。専門店では、フライドポテトやピクルス、タコフライなどのサイドメニューも豊富に用意され、3～4人前で23,000ウォン程度と、比較的リーズナブルな価格帯で提供されています。ただし、高カロリー・高塩分であることから、健康への影響を懸念する声も少なくありません。

チメクの歴史：経済成長と文化現象

チメクの起源は、1960年代後半のソウル明洞にまで遡ります。当時、アメリカからのブロイラーや飼料輸入によって鶏肉の供給が増加し、栄養センターが鶏の丸焼きと生ビールをセットで提供したのが始まりと言われています。

1970年代以降の韓国の高度経済成長（漢江の奇跡）によって、ショートニングや食用油、小麦粉の輸入が拡大し、フライドチキンの普及が進みました。1977年には韓国初のフライドチキンチェーン「リムスチキン ペドロス」が誕生し、1984年にはケンタッキーフライドチキンも進出するなど、市場は急速に拡大しました。

1980年代のプロ野球・プロサッカーリーグ発足は、チメクを伴うスポーツ観戦文化の醸成に大きく貢献しました。OBビールは1990年代にビアホールチェーン「OBホプ」を展開し、生ビールとチキンのセット販売が若者を中心に大ヒット。1997年の冷凍鶏肉輸入自由化を機に、外資系チェーンの参入も相次ぎ、チキン専門店はさらに増加しました。

2002年のFIFAワールドカップでは、チメクを楽しみながらパブリックビューイングを行う光景が全国的に広がり、一大ブームを巻き起こしました。その後も、鳥インフルエンザによる鶏肉の高騰や市場の競争激化を背景に、チキン専門店は付加価値の向上に努め、ビールを提供する店舗が増加していきました。

ドラマの影響とチメク文化の進化

2013年に放送された韓国ドラマ『星から来たあなた』では、主人公が家族とチメクを食べるシーンが重要な場面として描かれ、このドラマ放映をきっかけに、チメクの人気は再び高まりました。このドラマの影響は韓国国内にとどまらず、中国でも大きな反響を呼び、上海では韓国式フライドチキン店に長蛇の列ができるなど、社会現象を巻き起こしました。

現在では、大邱チメクフェスティバルなど、チメクをテーマにしたイベントも開催され、韓国の食文化を象徴する存在として、チメクはますます進化を続けています。チメクは、単なる食べ物ではなく、韓国の経済発展、食文化、そして大衆文化を反映する象徴的な存在となっているのです。

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