チョコアンリ

チョコアンリ：幻の蟻入りチョコレート

チョコアンリは、かつて日本で製造され、主にアメリカへ輸出されていたという、非常にユニークなチョコレート菓子です。1957年頃（または1956年という説も）に誕生し、その特異な素材から大きな話題を呼びました。

チョコアンリの概要

このチョコレートの最大の特徴は、中に揚げた蟻が入っているという点です。使用されていたのはアカヤマアリ（実際にはエゾアカヤマアリの可能性が高い）で、油で揚げて塩味を付けた後、チョコレートでコーティングされました。一粒のチョコレートには約20匹もの蟻が含まれており、蟻酸による甘酸っぱい味が特徴でした。また、強心剤としての効果があるという噂や、カジノでの賭け事に強くなるというジンクスも生まれ、珍しいチョコレートとして注目されました。

アリの採取

チョコアンリに使用するアリは、長野県の戸隠・飯縄高原に生息するアカヤマアリ（実際にはエゾアカヤマアリの可能性が高い）が用いられました。毎年8月末になると、地元の農家の人々が総出でアリの採取にあたりました。彼らは目の細かい網と、採取したアリを入れるための水入り石油缶を用意し、カラマツ林へ向かいました。

アカヤマアリは、林内の地上に高さ20cmから1mほどの円錐形の蟻塚を形成します。この蟻塚周辺には多くのアリが出歩いており、非常に攻撃的で近づくものにはすぐに噛みつきます。そのため、網を蟻塚にかぶせると、多くのアリが網に噛みつくため、比較的容易に収集できました。集めたアリは石油缶の中に払い落として回収されました。

一日で二百匁（約750g）程度は簡単に採取でき、百匁あたり四百円程度で買い取られていました。当時、一家総出で三日間働けば一万円稼げたといいますから、かなりの収入になったと言えるでしょう。現地には集荷場も設けられ、乾燥させたアリは長野市内を経由し、東京の工場へと運ばれていきました。このアリの採取は、地元住民にとって思わぬ現金収入となり、嫁入り支度を整えられたという逸話も残っています。しかし、その一方で、戸隠や飯縄高原では一時的にヤマアカアリ（実際にはエゾアカヤマアリの可能性が高い）が減少したとも伝えられています。

なお、本項の出典となった『昆虫物語─昆虫と人生─』のチョコアンリの項は1957年発行のグラフ誌『サングラフ』を元に執筆されたと考えられます。

販売と海外での展開

チョコアンリは一粒180円、55g入りの缶詰で販売されました。その年の9月17日には横浜からニューヨークに向けて出荷され、アメリカでは高級品として扱われました。その輸出額は2000万円にも達したと言われています。アメリカでは、シカゴのReese Finer Foods Inc.によって「FRIED ANTS」や「CHOCOLATE COVERED ANTS」という商品名で、蜂の子や揚げ蝶など他の珍味とともに販売されていました。

チョコアンリは、その特異なコンセプトとユニークな味わいから、当時大きな話題を呼んだものの、現在では幻のチョコレートとなっています。

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