チョーキング

ギターにおけるチョーキング奏法：歴史、種類、そして応用

チョーキングは、ギター演奏において弦を弾いた後に押弦した指で弦を押し上げ、音程を連続的に変化させる奏法です。日本語では「チョーキング」と呼ばれますが、英語圏では「bending」や「pitch bend」といった表現が用いられ、「チョーキング」という単語は一般的ではありません。

歴史と発展

チョーキング奏法は、クラシックギターの時代から音色に変化を与える奏法として用いられてきました。しかし、広く認知され、多用されるようになったのは20世紀以降のことです。その起源は、ブルース音楽のギタリストたちが、ジャズバンドにおける管楽器奏者のピッチベンド奏法を模倣したことに遡ると考えられています。

太い弦が主流だった時代にもチョーキングは存在しましたが、太い弦を使用する場合は非常に強い指の力が必要となり、自由にチョーキングを操れる奏者はごくわずかでした。1960年代に張力の弱い細い弦（ライトゲージ弦）が普及し、指への負担が軽減されたことで、チョーキングはより一般的な奏法として認知されるようになりました。現在ではブルースだけでなく、ロック、カントリー、ポップスなど、幅広いジャンルの音楽で広く用いられています。

なお、チョーキングと同様の奏法は、フレットやそれに類する仕組みを持つ他の弦楽器にも見られます。例えば、インドのシタールの「ミンド」や、日本の箏の「押し手」は、弦を操作する方向こそ違えど、原理的にはチョーキングと非常に近い奏法と言えるでしょう。

チョーキングの種類と楽譜表記

チョーキングには様々な種類があり、音程の変化量によって様々な名称が用いられています。以下に主な種類と、楽譜における一般的な表記方法を示します。

単音チョーキング (1音チョーキング): 1音程（長2度）音程を上げる。楽譜では「C」と表記されることが多い。
半音チョーキング: 半音（短2度）音程を上げる。楽譜では「H.C」と表記されることが多い。
1音半チョーキング: 1音半（短3度）音程を上げる。楽譜では「1H.C」と表記されることが多い。
2音チョーキング: 2音程（長3度）音程を上げる。楽譜では「2C」と表記されることが多い。その他、2音半（完全4度）、3音（増4度）など、より大きな音程を上げるチョーキングも存在する。
クォーター・チョーキング (Q.C): 半音に満たないわずかな音程を上げる。必ずしも1/4音程である必要はない。
ダブル・チョーキング (ダブル・ベンド): 2本以上の弦を同時に音程を上げる。
ハーモナイズド・チョーキング: 音程を上げる弦と上げない弦を同時に発音し、和音を作る。楽譜には特別な記号は無いが、奏法が分かるように記述される。
ユニゾン・チョーキング: 音程を上げる弦と上げない弦を同時に発音し、2つの音を同じ音程にする。楽譜には特別な記号は無いが、奏法が分かるように記述される。
チョーク・アップ (U, H.U, 1H.U, 2U): チョーキングした状態で音を出す奏法。音程を上げる過程の音は含まない。
チョーク・ダウン (D): チョーキングした音を元に戻し、音程を下げる奏法。
ポルタメント・チョーキング (Port.○○): ゆっくりと音程を上げるチョーキング。
ヴィブラート: チョーキングとチョーク・ダウンを繰り返し、音を揺らす奏法。楽譜では波線で示される。
チョーキング・ヴィブラート: チョーキングした状態でヴィブラートを行う奏法。
スティールギター・リック: チョーキングする弦としない弦をコードとして、またはメロディの一部として同時に発音し、ペダルスティールギターのような音色とフレーズを作るテクニック。カントリーミュージックで多用される。

まとめ

チョーキングは、ギター演奏における重要な奏法の一つであり、その歴史は古く、現代音楽においても幅広く活用されています。様々なバリエーションが存在し、奏者の表現力を大きく広げる役割を果たしています。 ライトゲージ弦の普及が奏法の容易さと普及に貢献した点は特筆すべきでしょう。 今後も、チョーキング奏法は進化し続け、音楽表現の豊かさをさらに増していくことでしょう。

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