チンチンナブルム

チンチンナブルム：古代ローマの魔除け

チンチンナブルム（羅: tintinnabulum）は、古代ローマ時代に用いられた魔除けの一種です。風鈴や複数の鈴を組み合わせたもので、多くの場合、勃起した男性器を模した形状をしていました。この独特な外観と音には、邪視を遠ざけ、幸運と繁栄を呼び込む力があると信じられていました。

起源と用途

チンチンナブルムの起源は、ミトラスやディオニューソスを信仰する古代ローマの密儀宗教にあると考えられています。主に、店舗や家屋の入り口、中庭、寝室、売春宿などに吊るされ、風が吹くと音を立てることで、空間を清め、悪霊を払うとされていました。また、紐につないで手動で鳴らすことで、呼び鈴のような役割も果たしていました。

古代ローマ人にとって、男性器は必ずしも卑猥なものではなく、むしろ幸運や幸福をもたらす象徴として捉えられていました。邪視に対抗する力を持つと信じられ、ワインの杯や子供用のお守りなど、様々な場面で男性器のモチーフが用いられました。同様の信仰はローマに限らず、世界各地で見られます。

チンチンナブルムの音は悪霊を遠ざけると信じられており、これは初期カトリック教会における破門の儀式で使用された鐘の役割と類似しています。ユピテルトナンス寺院などでも同様の鐘が見つかっており、宗教的な用途にも用いられていたことが示唆されています。また、酒場や庭園、神殿などに飾られた小像（oscilla）も、チンチンナブルムと同様の魔除けとしての意味合いを持っていたと考えられています。

多様な用途

チンチンナブルムは、以下のような様々な目的で使用されていました。

魔除け: 礼拝所や一般家庭に吊るされ、手動または風によって音を鳴らすことで、怒れる神々を鎮め、病人を癒やし、悪運を遠ざけると信じられていました。
開店告知: 公衆浴場や市場で使用され、開店を知らせる役割を果たしました。
識別・追跡: 囚人や家畜の首に下げて使用され、識別や追跡を容易にするだけでなく、魔除けの意味合いも込められていたと考えられます。
警報: 建物や店舗、住宅に吊るされ、異変を知らせる警報として機能しました。
* 楽器: 一種のベルのように使用され、音を奏でる楽器としても用いられました。

出土例

精巧に装飾されたチンチンナブルムのペンダント（男性器型ではない）が、エトルリアの遺跡から出土しています。その一例として、女性が羊毛を梳き、紡ぎ、織る様子が表現されたものがあります（ボローニャ考古学博物館蔵）。また、馬や羊の首に取り付けられた鈴も、追跡を容易にするだけでなく、魔除けの目的もあったと考えられています。

ナポリ国立考古学博物館のSecret Museumには、多数のチンチンナブルムが収蔵されています。

「チンチンナブルム」と「ちんちん」

日本語で男性器を表す幼児語「ちんちん」と、チンチンナブルムは形態・意味ともに類似しているように見えますが、これは偶然の一致です。チンチンナブルムの語源は、擬音語に由来する動詞"tinniō"（チンと鳴らす）の畳語"tintinnō"（チンチンと鳴らす）に接尾語"-bulum"（～する道具）を付したものです。一方、「ちんちん」は江戸時代から用いられた幼児語ないし俗語であり、その語源については諸説ありますが、チンチンナブルムに由来するという学術的な指摘はなされていません。したがって、両者は形態や意味の類似性にかかわらず、無関係であると言えます。

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