チンブー族

チンブー族

パプアニューギニアに居住する、比較的小規模な民族集団であるチンブー族は、同国中央部の高地にその生活基盤を置いています。彼らの故郷は、海抜4,500メートル級の高峰が連なる険しい山岳地帯に位置する、チンブー、ワギ、そしてコロニグルという三つの深い渓谷です。この地理的な隔絶は、彼らの独自の文化や社会構造を育む要因となってきました。

チンブー族の生計を支える主要な作物はサツマイモです。この作物は標高2,400メートル程度の高地でも栽培が可能であり、彼らは長年にわたる経験の中で、限られた土地資源を最大限に活用するための高度な栽培技術を発達させてきました。これにより、厳しい自然環境下でも安定した食料供給を確保しています。

伝統的なサツマイモ栽培に加え、近年では換金作物としてコーヒーの栽培も盛んに行われています。この新しい経済活動は、チンブー族の社会に外部経済との繋がりをもたらし、経済的な豊かさや生活様式の変化をもたらす重要な要素となっています。また、ブタの飼育も彼らの生活において非常に重要です。ブタは食料としてだけでなく、部族間での儀礼的な贈与や取引においても中心的な役割を果たしており、社会的な絆を強化する機能も担っています。

チンブー族の社会構造は、伝統的な氏族単位で構成される集落（部落）を基盤としています。それぞれの氏族は独自の領域を持ち、緊密なコミュニティを形成しています。特筆すべきは、男子集会所の存在です。成人男子はここで共同生活を送り、儀式や話し合い、若者への教育など、共同体の重要な活動を行います。これは、社会的な結束と男性間の連帯を維持するための伝統的な制度です。

一方で、チンブー族は外部世界との接触にも比較的早くから適応してきました。特に、海岸地方や高地の白人経営のプランテーションへの契約労働者としての出稼ぎは、多くのチンブー族が経験することとなりました。この経験を通じて、彼らは伝統的な生活様式に加えて、西欧的な生活習慣や価値観に触れ、それらを取り入れることにも抵抗が少なくなっています。このような外部からの影響は、彼らの文化や社会に変容をもたらしています。

宗教の面では、伝統的なアニミズム信仰に加え、外部から導入されたキリスト教が広く浸透しています。特にカトリックとプロテスタントの二つの宗派がほぼ同程度の信者数を有しており、それぞれの教会が地域社会において重要な役割を果たしています。これは、外部文化の流入と伝統的な価値観との間の複雑な相互作用を示す一例と言えるでしょう。

チンブー族は、高地の厳しい自然に適応しながらも、外部世界との交流を通じて経済や社会、文化の変革を経験している民族です。伝統的な生活様式と近代的な要素が混在する彼らの社会は、パプアニューギニアの多様性を象徴する存在の一つと言えます。

（参考文献: 『世界の民族 1』《オーストラリア・ニューギニア・メラネシア》平凡社、1978年）

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