ティテュオスの罰 (ミケランジェロ)

ミケランジェロの素描『ティテュオスの罰』

『ティテュオスの罰』（伊: La punizione di Tizio, 英: The Punishment of Tityus）は、イタリア・ルネサンスの巨匠ミケランジェロによる素描作品です。1532年に制作され、彼の友人であるトンマーゾ・デイ・カヴァリエーリに贈られました。この素描は、ミケランジェロとカヴァリエーリの関係性、そしてミケランジェロがこの作品に込めた意図を考察する上で、重要な資料となっています。また、素描の裏面には復活したキリストが描かれており、その意味についても様々な解釈がなされています。

作品の概要

素描には、大きな岩に縛られた神話の人物ティテュオスが描かれています。ティテュオスは、アポロンの母レトをレイプしようとした罪で、永遠に肝臓をハゲタカについばまれるという罰を受けています。ミケランジェロの素描では、ティテュオスは苦悶の表情を浮かべ、体がねじ曲がっています。岩の上には、口を開けた人間の横顔のようなものが描かれており、植物か木の幹のようにも見えます。背景は水平線のみで、岩が唯一の位置を示す要素となっています。ティテュオスの体は、頭が後ろに捻られ、右腕は頭上で縛られています。左腕は腰で縛られているように見え、右足は平ら、左足は直角に曲がっています。ハゲタカはティテュオスのねじれた体の上に乗るように描かれ、左右の翼を広げ、その頭をティテュオスの体の中央に少し近づけています。

トンマーゾ・デイ・カヴァリエーリとの関係

この素描は、当時57歳だったミケランジェロが、23歳のトンマーゾ・デイ・カヴァリエーリに贈った作品群の一つです。カヴァリエーリは、1532年から1564年に亡くなるまで、ミケランジェロと非常に親しい友人でした。二人は多数の手紙をやり取りしており、その関係は学者によって詳細に研究されています。ミケランジェロは、カヴァリエーリに宛てた多くのソネットの中で、彼への深い愛情を表現しています。例えば、「私は武装したカヴァリエーリの捕虜だ」という言葉は、カヴァリエーリの名前を使った愛情表現です。1532年に贈られたソネットは、ミケランジェロが生涯に制作したソネットの中で最も長いものの一つです。

ホモエロティシズムの解釈

ミケランジェロがカヴァリエーリに贈った一連の素描には、ホモエロティシズムのニュアンスが含まれていると解釈されています。ティテュオスの絵では、神話におけるティテュオスの罪と罰が、叶わぬ恋慕や愛の象徴として捉えられています。また、肝臓が「情欲の座」とも呼ばれることから、ミケランジェロのカヴァリエーリに対する片思いを表現したものとも考えられます。ガニュメデスの絵についても同様に、ゼウスが若いガニュメデスに抱いた欲望が、ミケランジェロのカヴァリエーリに対する肉体的な欲望を暗示していると解釈できます。当時の社会的な背景から、同性愛に対する偏見があったため、ミケランジェロは絵やソネット、手紙を通して、自身の愛情を間接的に表現せざるを得なかったと考えられています。

もう一つの解釈：絵画指導の教材

一方で、この作品群はカヴァリエーリに絵を教えるための教材として描かれたという解釈もあります。ジョルジョ・ヴァザーリは、カヴァリエーリが「絵を学ぶために」これらの作品を与えられたと述べています。ティテュオスの絵の裏面には、ティテュオスが復活したキリストの姿に描き直されており、これはカヴァリエーリがデッサンの練習として描いたとする説もあります。カヴァリエーリの筆跡は、ミケランジェロから贈られた他の絵の模写から特定されています。さらに、カヴァリエーリに贈られた4枚のプレゼンテーション用の絵（『ティテュオス』『ガニュメデス』『パエトンの墜落』『イル・ソグナトレ』）は、それぞれの人物が異なる方向を向いています。これは、カヴァリエーリに男性裸体像の基本的な体位の描き方を示すためのものであったと考えられます。

結論

ミケランジェロがカヴァリエーリに贈った素描『ティテュオスの罰』は、その高い芸術性と、ミケランジェロのセクシュアリティを示唆する可能性から、多くの研究者によって議論されてきました。ホモエロティシズムの表現として解釈される一方で、カヴァリエーリに絵の描き方を教えるための教材であったという説もあります。特に、裏面に描かれたキリスト像の謎は、依然として解明されていません。この作品は、ミケランジェロの芸術と人物像を理解する上で、非常に重要な意味を持つ作品と言えるでしょう。

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