テオフィロ・ステベンソン

テオフィロ・ステベンソン（1952年3月29日 - 2012年6月11日）は、キューバを代表するアマチュアボクシングの英雄です。196cmの長身と恵まれた体格を生かし、卓越した技術と強烈なパンチで、世界のアマチュアボクシング界を席巻しました。

8歳でボクシングを始め、1970年にナショナルチーム入り。その才能は瞬く間に開花し、対戦相手が試合中にギブアップするほどの圧倒的な強さを誇りました。デビュー直後と引退間際に敗戦が集中していることからも、オリンピックという舞台において、彼に敵う者がいなかったことが窺えます。

ステベンソンが勝利したボクサーの中には、後に世界ヘビー級王座を獲得したジョン・テイト、グレグ・ペイジ、ゲリー・コーツィーらが名を連ねます。当時のヘビー級は、モハメド・アリ、ジョージ・フォアマン、ジョー・フレージャーといったスター選手がひしめく黄金時代。ステベンソンにも、プロモーターから「アメリカへ亡命し、プロで活躍すれば大金を稼げる」という誘いが後を絶ちませんでした。しかし彼は、「私は祖国と家族を愛している。国を捨てることはできない」と、これらの誘いを固辞し続けました。

引退後、ステベンソンはモハメド・アリとの対戦が実現しなかったことを後悔する言葉を残しています。当時のアマチュアボクシングはヘッドギアの着用が義務付けられておらず、プロとの技術的な差は僅少でした。もし彼がプロに転向していれば、スター選手とのビッグマッチが実現し、巨額の富を得ていたことは想像に難くありません。

キューバは1984年のロサンゼルスオリンピックを政治的理由でボイコットしたため、ステベンソンがオリンピックボクシング史上初の同階級4連覇を達成する夢は叶いませんでした。

1988年に引退後は、故郷でサトウキビ農場を経営し、ボクシングとは一線を画した生活を送りました。晩年には、故郷の町に有志の寄付によって記念館が建設され、オープン時には「Pirolo（ピロロ）」コールの中、感極まって涙を流す姿が報道されました。これは、彼が国民からいかに愛されていたかを物語るエピソードです。

2012年6月11日、心臓病のため60歳で生涯を閉じました。

ファイトスタイル

ステベンソンは、基本に忠実なオーソドックススタイルを信条としていました。長身から繰り出される鋭いジャブと左右のストレートで試合をコントロールし、相手のパンチをパリングやスウェーで巧みに回避。一撃で相手を打ち倒すハードパンチも兼ね備えた、バランスの取れたボクサーでした。2m近い巨体でありながら、軽快なコンビネーションとフットワークも持ち合わせており、そのスピードは当時のアマチュアボクシング界では群を抜いていました。

若手時代は、積極的にインファイトに持ち込み、力任せにダウンを奪う場面も見られましたが、年齢を重ねるにつれて、スピードに乗ったワンツーと右クロスカウンターで仕留める、より洗練されたスタイルへと進化を遂げました。

関連項目

男子ボクサー一覧
フェリックス・サボン - 同じキューバ出身で、アマチュアボクシングの強豪として知られ、ステベンソンと比較されることがよくあります。

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