テナー・マッドネス

テナー・マッドネス（Tenor Madness）

「テナー・マッドネス」は、テナー・サックスの巨匠、ソニー・ロリンズが1956年に世に送り出したジャズ・アルバムです。この作品は、同時期にマイルス・デイヴィスの第一期クインテットを支えていた名手たち、すなわちピアニストのレッド・ガーランド、ベーシストのポール・チェンバース、そしてドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズを迎えて制作されました。彼らはこのレコーディングのわずか13日前に、マイルスのグループとして短期間に多数の楽曲を録音するという、ジャズ史に名高い「マラソン・セッション」を終えたばかりでした。その直後であったため、参加メンバーは皆、演奏家として円熟期に入りつつあり、極めて高い集中力と創造性を発揮していました。このアルバムに収められた演奏からも、彼らが当時のジャズシーンにおいて最高の状態にあったことがうかがえます。なお、ロリンズはドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズとは非常に相性が良く、翌年に発表された自身のアルバム『ニュークス・タイム』でも再び彼をドラムに迎えています。

伝説的な共演

アルバムの表題曲でもある「テナー・マッドネス」は、ジャズの根幹をなすブルース形式に乗って展開される楽曲です。この曲の最大の聴きどころは、参加した各プレイヤーのソロ回しにあります。特に、ソニー・ロリンズと並んで当時のジャズ界を牽引していたもう一人のテナー・サックス奏者、ジョン・コルトレーンがゲストとしてこの一曲に参加している点が特筆されます。ロリンズとコルトレーンは、同じ楽器を演奏するライバルでもあり盟友でもありましたが、公式なレコーディングで共演した機会は極めて限られており、この「テナー・マッドネス」が唯一の公式録音における共演とされています。同じテナー・サックスという楽器でありながら、アプローチの異なる二人の巨人が火花を散らすような、あるいは互いを高め合うようなスリリングなソロの応酬は、ジャズ史における最も重要な瞬間の一つとして語り継がれています。この一曲だけでも、本作がジャズファンにとって不可欠な一枚である理由を示すに十分でしょう。

収録曲と参加メンバー

「テナー・マッドネス」以外にも、このアルバムにはジャズのスタンダードやロリンズのオリジナル曲などが収録されており、マイルス・クインテットのリズム隊が織りなす強固かつ柔軟なサポートに乗ったロリンズの豊かなテナー・サックスが堪能できます。

収録曲

1. テナー・マッドネス (Tenor Madness) - 作曲：Sonny Rollins
2. 恋人が行ってしまったら (When Your Lover Has Gone) - 作曲：Einar A. Swan
3. ポールズ・パル (Paul's Pal) - 作曲：S. Rollins
4. マイ・レヴェリー (My Reverie) - 作曲：Claude Debussy, Larry Clinton
5. 世界一美しい娘 (The Most Beautiful Girl In The World) - 作曲：Lorenz Hart, Richard Rodgers

演奏メンバー

ソニー・ロリンズ - テナー・サックス
ジョン・コルトレーン - テナー・サックス（1.のみ参加）
レッド・ガーランド - ピアノ
ポール・チェンバース - ベース
* フィリー・ジョー・ジョーンズ - ドラム

このアルバムは、ソニー・ロリンズという偉大なテナー・サックス奏者の初期の頂点を示す作品であると同時に、ジャズ史を彩る伝説的な共演が記録された記念碑的な一枚として、今なお多くのリスナーに聴き継がれています。

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