テリエ・ハーコンセン

テリエ・ハーコンセン（Terje Håkonsen、1974年 10月11日生まれ、ノルウェー出身）は、その卓越した技術と文化への影響力から「スノーボードの神様」と広く称される、ノルウェーを代表するプロスノーボーダーです。キャリア初期はスピード競技に注力していましたが、次第にフリースタイルへとその才能を開花させました。伝説的なスノーボーダー、クレイグ・ケリーを師と仰いでおり、その哲学からも大きな影響を受けています。

生ける伝説としての足跡

ハーコンセンは、フリースタイルスノーボードの頂点として語り継がれる数々の功績を残しています。国際スノーボード連盟（ISF）が主催したハーフパイプ世界選手権では、1993年、1995年、1997年と前人未踏の三連覇を達成し、圧倒的な強さを見せつけました。

主要な国際大会での優勝歴も輝かしく、その一部を挙げると以下のようになります。

ヨーロッパ選手権: 5回優勝（1991年, 1992年, 1993年, 1994年, 1997年）
U.S.オープン: 3回優勝（1992年, 1993年, 1995年）
ベイカーバンクドスラローム: 6回優勝（1995年, 1996年, 1998年, 2000年, 2003年, 2004年）
インスブルック Air & Style: 1995年に優勝

これらの記録は、彼が異なる競技形式においても類稀な才能を発揮したことを証明しており、彼の「生ける伝説」としての地位を不動のものとしました。

革新的なトリックの創造

ハーコンセンは、自身の名を冠した革新的なトリックをスノーボード界にもたらしました。代表的なものにハーコンフリップがあります。これは、日本のプロスノーボーダーである中井孝治選手がハーフパイプで頻繁に披露するなど、多くのライダーに影響を与えました。

また、彼独自開発のトリックとしてワンフット・マックツイストがあります。これは、クォーターパイプ競技などで用いられる高難易度のエアトリックです。後ろ足（利き足）をバインディングから外し、不安定な片足立ちの状態からジャンプし、空中でマックツイスト（縦回転軸に沿った横方向へのひねり回転）を行うと同時に外した足を突き出すという、非常にテクニカルな動きを伴います。成功すれば高得点につながるため、競技の決定的な局面で勝負をかけるトリックとして知られています。

バートン・スノーボードとの協力関係

キャリアの初期から、ハーコンセンはバートン・スノーボードと専属契約を結び、単なる契約ライダーにとどまらず、ボード開発にも積極的に携わりました。バートン社が開発したハニカム構造のアルミニウム素材「アルマフライ」を初めて採用した革新的なボード「T6」の開発に貢献したことは有名です。さらに、パウダー（粉雪）専用ボードである「バートン・フィッシュ」や、フリースタイルとパウダーの両方に対応するボード「バートン・マロロ」の開発にも深く関与し、スノーボードギアの進化にも大きな足跡を残しました。

映像作品への出演

ハーコンセンのライディングは、数多くのスノーボードフィルムにも記録されています。人工的に整備されたパークだけでなく、自然そのままのバックカントリーにおいても、その唯一無二のスタイルを披露してきました。著名なスノーボードドキュメンタリーフィルム『ファースト・ディセント』（First Descent）にも出演し、ショーン・ホワイトなど、異なる世代のトップライダーたちと共演しています。また、デイブ・ショーンが手掛けたドキュメンタリー作品『The Haakonson Factor』や『Subjekt Haakonson』など、彼自身に焦点を当てた映像作品も制作されています。

オリンピック辞退とアークティックチャレンジの創設

1998年長野冬季オリンピックからスノーボードが正式種目として採用されましたが、この出来事はスノーボード界に大きな波紋を投げかけました。国際オリンピック委員会（IOC）が、長年スノーボードの競技発展に尽力してきた国際スノーボード連盟（ISF）ではなく、国際スキー連盟（FIS）に選手選考を委託したことに、ハーコンセンを含む多くのトップライダーが強く反発しました。ハーコンセンは、FIS主導の選考プロセスへの参加を拒否し、オリンピックへの出場を辞退するという、大きな決断を下しました。彼は、国と国とが競うオリンピックの構図は、スノーボードが持つ「自由な精神」や個人表現の文化とは相容れないと考えたのです。

この状況を受けて、ハーコンセンはスノーボードの「自由な精神」とライダーの意思を尊重する場を作るため、盟友ダニエル・フランクと共にアークティックチャレンジ（Arctic Challenge）という独自のイベントを立ち上げました。2000年に始まったこのイベントは、毎年ノルウェーで開催され、高難易度のハーフパイプやクォーターパイプなどで、ライダーたちが純粋にライディングを追求できる場として支持されています。

アークティックチャレンジは、驚異的なエアの記録を生み出した場でもあります。2007年のアークティックチャレンジ決勝では、ハーコンセン自身がクォーターパイプのリップ（エッジ）から9.8メートルの高さを飛び上がるバックサイド360を披露し、これはスノーボードにおけるエアの高さの世界記録として現在も語り継がれています。

スポンサー

テリエ・ハーコンセンのキャリアを長年支えた主要スポンサーは以下の通りです。

バートン・スノーボード
スウォッチ

テリエ・ハーコンセンは、競技者としての輝かしい実績に加え、トリック開発、ギア開発への貢献、そしてスノーボードの文化と精神を守るための行動を通して、現代スノーボードの基礎を築き、後世に計り知れない影響を与え続けている真のレジェンドです。

もう一度検索