テレキ・パール

セーク伯爵テレキ・パール：ハンガリーの政治家、苦悩の宰相

セーク伯爵テレキ・パール・ヤーノシュ・エデ（1879年11月1日 - 1941年4月3日）は、ハンガリー王国の政治家、政治学者、地理学者であり、戦間期に二度首相を務めました。第二次世界大戦への参戦を目前に、苦悩の末に自ら命を絶った悲劇の宰相として知られています。

生い立ちと学者としての道

テレキ・パールは、ハンガリーの大貴族であるテレキ家のゲーザ伯爵の子としてブダペストで生まれました。テレキ家はトランシルヴァニアの名門貴族であり、一時期はトランシルヴァニア公を輩出した家柄でした。父ゲーザは内務大臣を務めたほか、ハンガリー科学アカデミー会員、歴史学協会会長を務めるなど、学者としても高名でした。探検家テレキ・サミュエルを叔父に持ち、その影響からパールは地理学を志すようになりました。

ブダペスト大学で地理学、政治学を修め、1898年には最初の研究を発表。1903年には政治学博士号を取得しました。1905年にはハンガリー王国議会議員となりますが、これは名誉職的なものでした。1906年にはハンガリー地理学協会の会員となり、ハンガリー地理学研究所の所長を12年間務めました。1908年には国際地理学会議で「日本列島の地図作成の歴史」を発表し、フランス地理学会のジョマール賞を受賞。世界的な地理学者としての名声を確立しました。1919年にはブダペスト経済大学の政治学教授に就任し、政治地理学を教鞭をとりました。

民族分布地図の作成とツラニズム

テレキは、場所と人、場所と社会の密接な関係を重視し、ハンガリーが第一次世界大戦で敗戦を迎えた1920年には、詳細なハンガリー民族（マジャール人）の分布地図を作成しました。彼はこの地図を「ハンガリー人の血の通った地図」と呼び、トリアノン条約による領土分割の不当性を訴えました。

また、テレキはツラニズムの信奉者であり、1910年にはツラン協会の創設メンバーとなり、会長、副会長を歴任しました。

首相として

1919年、ハンガリー・ルーマニア戦争後の混乱期に教育相に任命され、その後、ホルティ・ミクローシュ摂政によって首相に指名されました。貴族出身であること、語学に堪能であること、愛国者であることが理由でした。1920年7月19日に首相に就任し、トリアノン条約の修正交渉に尽力しますが、成果は得られませんでした。カール1世の復位運動への対応に苦慮し、1921年4月21日に辞任しました。

退任後は研究生活に戻り、ブダペスト経済大学に地理学研究所と東洋研究所を設立。国際連盟の委員としてトルコとイラクの国境画定にも携わりました。領土回復の正当性を訴える活動も続け、ハンガリー科学アカデミー研究所、ハンガリー統計協会政治学研究所を設立しました。ボーイスカウト運動にも尽力し、現在のハンガリーにはテレキボーイスカウト協会が存在します。1938年5月14日から1939年2月16日までは再び教育相を務め、第一次ウィーン裁定の交渉にも関与しました。

再び首相へ、そして自殺

1939年、親ナチス的だったイムレーディ・ベーラ首相が解任され、テレキが18年ぶりに首相に任命されました。ナチズムに批判的でありながら、領土回復に熱心なテレキは、ドイツと敵対せず、その力を利用して領土を回復しつつ、イギリス、フランスとの関係も維持するという困難な道を選びました。ドイツのポーランド侵攻に際しては、ドイツに親ドイツ的な政策を継続すると伝えつつ、参戦は拒否。亡命してきたポーランド軍民の保護も行いました。

しかし、1940年の第二次ウィーン裁定で北部トランシルヴァニアを獲得したものの、ドイツへの依存を深めざるを得ませんでした。国内では親独勢力である矢十字党が勢力を拡大。1941年、ユーゴスラビアでクーデターが発生し、ドイツがユーゴスラビアへの侵攻を計画すると、ドイツはハンガリーに対し、ヴォイヴォディナ回復の代償として、ドイツ軍の領内通過と対ユーゴ戦への参戦を要求しました。テレキは、締結したばかりのユーゴスラビアとの友好条約に反するこの要求に苦悩し、イギリスに支援を求めますが拒否されます。

絶望したテレキは、1941年4月3日、首相官邸でピストル自殺を遂げました。遺書には、自らの行為が祖国への裏切りであることを認めつつ、ドイツに加担することを拒否する意思が記されていました。チャーチルはテレキの死を悼み、その苦悩を理解していたと述べています。

テレキの死後、ハンガリーはドイツに加担し、第二次世界大戦に枢軸国として参戦。戦後、国土を失い、共産化の道を歩むことになりました。テレキの名前は共産主義時代に消されましたが、その功績は記憶されています。

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