テンチ

テンチ（Tinca tinca）

テンチは、コイ目コイ科に属する淡水魚で、ユーラシア大陸に広く分布しています。分類上、亜科は確定していませんが、タニクティス亜科やウグイ亜科に分類されることがあります。その特徴的な体表の粘液から、他の魚が傷を癒すために擦り付けるという伝承があり、「ドクターフィッシュ」とも呼ばれます。

分布と生息環境

テンチは、西ヨーロッパからアジアにかけて、オビ川やエニセイ川水系、中東地域など、ユーラシア大陸に広く分布しています。バイカル湖にも生息しており、日本ではかつて食用として埼玉県伊佐沼に移入されましたが、定着には至りませんでした。湖や流れの緩やかな河川などの静水域を好み、砂泥底で植生の豊かな場所を主な生息地としています。透明度の高い水域や流れの速い河川ではほとんど見られません。

生態

テンチは低酸素状態に非常に強く、コイが生息できない環境でも生きることができます。雑食性で、夜間に活発に餌を探し、藻類や底生無脊椎動物などを捕食します。水温が下がる冬季には泥の中に潜み、ほとんど餌を摂りませんが、飼育下では冬季でも積極的に餌を食べます。産卵は水草の多い浅瀬で行われ、粘着性のある緑色の沈性卵を産みます。産卵期は夏で、一度に30万個もの卵を産むこともあります。成長は比較的遅く、0.11kg程度に達するまで時間がかかります。

形態

テンチは、ずんぐりとしたコイ型の体型で、体色はオリーブ色から緑色、背側が暗く腹側が黄金色をしています。尾鰭は角形で、他の鰭は丸みを帯びています。口は比較的小さく、口の両端には発達した口ヒゲがあります。最大で70cmに成長しますが、多くは20cm程度の個体です。眼は小さく、赤色または橙色を帯びています。性的二形はあまり見られませんが、成熟したメスはオスに比べて腹部がやや膨らむ傾向があります。鱗は非常に小さく、厚い皮膚に埋もれており、体表は粘液で覆われていて滑りやすいです。

利用

テンチは食用魚として利用され、その味は良いとされています。また、観賞魚や釣りの対象としても人気があり、バス類の餌としても用いられます。特に、人工的に品種改良された「ゴールデンテンチ」は、ヨーロッパで観賞魚として人気があり、日本にも稀に輸入されています。ゴールデンテンチは、体色が淡い金色から赤色、青色まで様々で、黒色や赤い斑点を持つものもいます。

釣り

大型のテンチは、くぼみや泥底、水草の陰に潜んでいることが多く、様々な釣り餌に反応しますが、釣り上げるのは難しいとされています。1kgほどの個体は、非常に引きが強いことで知られています。

出典

Andrew Campbell・John Dawes編、松浦啓一監訳 『海の動物百科3 魚類II』 朝倉書店 2007年（原著2004年） ISBN 978-4-254-17697-1

関連項目

コイ目
コイ科
テンチ (潜水艦)
テンチ級潜水艦

外部リンク

FishBase‐テンチ （英語）

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