ディアトロフ・インシデント

『ディアトロフ・インシデント』（原題：Devil's Pass / The Dyatlov Pass Incident）は、2013年に製作されたアメリカ合衆国、イギリス、ロシア合作のSFホラー映画です。監督はレニー・ハーリンが務めました。

物語の着想源となっているのは、1959年2月に当時のソビエト連邦、ウラル山脈北部で実際に発生した未解決の山岳遭難事件、通称「ディアトロフ峠事件」です。この事件では、経験豊富な登山家を含む9名のパーティーが不可解な状況で全員死亡しており、その原因は現在に至るまで様々な憶測を呼んでいます。本作は、この歴史的な謎をフィクションとして再構築し、現代の視点から新たな恐怖を描き出します。

映画は「ファウンド・フッテージ」と呼ばれるスタイルを採用しています。これは、劇中の登場人物自身が撮影したビデオ映像や写真などを劇場のスクリーンに映し出すことで、観客があたかも実際にその場で起こっている出来事を目撃しているかのような臨場感や生々しさを体験できる表現手法です。

物語の中心となるのは、心理学を専攻する女子学生ホリーです。彼女は研究テーマとしてディアトロフ峠事件の遭難者の心理に迫ることを選ばり、その過程でドキュメンタリー映画の制作を企画します。ホリーは学内からジェンセン、J・P、アンディ、デニーズという4人の仲間をクルーとして集め、合計5人のチームを結成します。彼らの目的は、事件現場であるウラル山脈のホラート・シャフイル山を訪れ、当時の状況を検証し、事件の謎を解き明かすことです。

強い決意を持ってロシアのウラル山脈へと旅立った一行は、現地のガイドを雇い、事件の痕跡を辿るために雪深い山奥へと進んでいきます。しかし、彼らは目的地に近づくにつれて、次第に説明のつかない奇妙な現象や不吉な出来事に遭遇し始めます。道中での不穏な空気は、現場到着後さらに強まります。

ようやくディアトロフ峠、すなわちホラート・シャフイル山に到着した彼らは、そこでキャンプを設営します。しかし、安堵も束の間、突如として発生した大規模な雪崩が彼らを襲います。この自然の猛威により、クルーの一人であったデニーズが犠牲となり、アンディもまた脚に重傷を負うという悲惨な状況に陥ってしまいます。負傷したアンディを抱え、残されたホリー、ジェンセン、J・Pの3人は、外部との連絡手段が途絶えた中で救助を待つことになります。

極限状況に追い込まれた彼らの前に現れたのは、意外な存在でした。それは救助隊ではなく、彼らを捕捉しようとするロシア軍の兵士たちだったのです。なぜ軍隊が自分たちを追うのか理解できないまま、彼らは必死に逃走を図ります。絶体絶命のピンチの中、重傷を負いながらもアンディが咄嗟の機転を利かせた行動をとったことで、ホリー、ジェンセン、J・Pの3人は間一髪で追跡から逃れることに成功します。

逃げ込んだ先は、人里離れた山中にひっそりと隠された、巨大な鉄の扉の奥でした。その扉の先には、想像を絶する光景が広がっていました。そこは、旧ソビエト連邦時代に使用されていたと思われる広大な地下実験施設の跡地だったのです。そして、この施設こそが、ディアトロフ峠事件の真の原因に深く関わっていたことを示唆する証拠と、そこで行われていた非人道的な実験、そして事件の背後に隠された驚愕の真実、さらにはそこに潜む新たな恐怖に直面することになります。映画は、彼らが施設内で発見した記録映像や、彼ら自身のカメラが捉えた映像を通して、事件の核心と、そこから派生した新たな悲劇を描写していきます。

主要なキャストには、主人公ホリーを演じるホリー・ゴス（日本語吹き替えは白石涼子）、ジェンセン役のマット・ストーキー（川島得愛）、J・P役のルーク・オルブライト（丸山壮史）、アンディ役のライアン・ホーリー（岡本未来）、そして雪崩の犠牲となるデニーズ役のジェマ・アトキンソン（長尾明希）などが名を連ねています。

『ディアトロフ・インシデント』は、実際の未解決事件のミステリーと、旧ソ連の秘密主義や人体実験といった都市伝説的な要素、そしてファウンド・フッテージ特有のリアリティ演出を組み合わせることで、観る者を不気味で閉鎖的な恐怖へと引き込む作品となっています。

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