ディアドルフ

ディアドルフ（Deardorff & sons Inc.）は、かつてアメリカ合衆国イリノイ州シカゴに存在した、主に木製の大判カメラ製造で知られるメーカーです。

創業者のラバーン・F・ディアドルフ（Laban F. Deardorff、1861年生まれ）は、1890年代にはロチェスター・カメラ・カンパニーでカメラ設計に携わっていました。その後、シカゴへ移り、カメラの修理店を開業しました。ディアドルフが手作業による木製暗箱型カメラの製造を開始したのは1923年のことです。

同社のカメラは、その卓越した堅牢性、細部にわたる精巧な作り、そして優美なデザインを兼ね備えていました。こうした特長から、ディアドルフの木製大判カメラは、長年にわたり「最高峰」との評価を得ており、現在に至るまでプロ・アマチュアを問わず多くの写真家から絶大な支持を受けています。また、その品質と希少性から、写真撮影の道具としてだけでなく、貴重なコレクターズアイテムとしても扱われており、中古市場においても価格が安定している理由の一つとなっています。

ディアドルフの製造は幾度かの変遷をたどりました。1988年にシカゴでの生産を終えた後、日本の銀一と駒村商会の支援を得て、1992年にテネシー州アセンズで生産を再開しましたが、残念ながら1996年には再び製造が中止されました。しかし、2011年には再び製造が企画され、4×5インチ判と8×10インチ判のモデルが、それぞれ15台のみという非常に限定された数で生産されました。

ディアドルフカメラの技術的な特徴としては、フロントライズ機能が挙げられます。これは、レンズボード自体を上下させることで、さらなるライズ量を確保できる構造になっています。また、ベビーディアドルフを除くモデルの蛇腹は、「ディアドルフ折り」と呼ばれる独自の複雑な折り方が採用されています。

主な製品ラインナップには、様々な判型が存在しました。

ベビーディアドルフ (Baby Deardorff): 標準的な5×7インチ判を基にしつつ、4×5インチ判専用として小型化されたモデルです。生産台数は約500台とされています。

4×5インチ判: 5×7インチ判モデルのフロント部とバック部を交換して作られたボディです。重量は約3.2kg。バック部を交換することで5×7インチ判での撮影も可能でした。初期生産分約230台にはフロントスイング機能がありませんでした。

5×7インチ判: ライズ量10cm、センターティルト各30度、スイング各20度の可動域を持ちます。蛇腹長は55cmで、焦点距離90mmから560mmのレンズが使用可能です。レンズボードは4×4インチ。重量は約3.2kgです。

8×10インチ判: ライズ量17cm、センターティルト各30度、スイング各20度の可動域を持ちます。蛇腹長は75cmで、焦点距離100mmから750mmのレンズが使用可能です。レンズボードは6×6インチ。重量は約5.7kgです。初期の約230台にはフロントスイング機能がありませんでした。

10×12インチ判: ライズ・フォール量がそれぞれ14.6cmと10.2cm、センターティルト各30度、スイング各20度。蛇腹長は105cm、レンズボードは6×6インチです。焦点距離127mm以上のレンズが使用可能でした。

11×14インチ判: 10×12インチ判と同様に、ライズ・フォール量がそれぞれ14.6cmと10.2cm、センターティルト各30度、スイング各20度。蛇腹長は105cm、レンズボードは6×6インチです。重量は約13.6kg。焦点距離127mm以上のレンズが使用可能でした。

8×20インチ判: ライズ・フォール量各14.6cm+10.2cm、センターティルト各30度、スイング各20度。蛇腹長105cm、レンズボード6×6インチ。重量約13.8kg。焦点距離127mm以上のレンズが使用可能。わずか3台のみの限定生産でした。

12×20インチ判: ライズ・フォール量各14.6cm+10.2cm、センターティルト各30度、スイング各20度。蛇腹長105cm、レンズボード6×6インチ。重量約15kg。焦点距離127mm以上のレンズが使用可能でした。

14×20インチ判: 1台のみ製造された特注品です。

16×20インチ判: 1台のみの限定生産でした。

ディアドルフのカメラは、その卓越した品質と歴史的な価値から、現代においてもなお、大判写真の世界で特別な存在感を放っています。

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