デイジーホイールプリンター

デイジーホイールプリンター：高品質印刷の1時代を築いたインパクトプリンター

デイジーホイールプリンターは、1970年代から1980年代にかけて、高品質なテキスト印刷を担ったインパクトプリンターです。その特徴は、交換可能な印字ヘッドである「デイジーホイール」にあります。このホイールは、ヒナギクの花びらのように文字が配置されていることからその名が付けられました。各文字は個別に形成されており、まるで高級タイプライターのような、精緻で読みやすい文字を印字することができました。

デイジーホイールプリンターの歴史

デイジーホイールの概念自体は古く、1889年にはすでに特許が取得されています。しかし、商業的に成功を収めたのは、1970年代に入ってから、ディアブロ・データ・システムズ社によるものです。アンドリュー・ガボール博士率いるチームは、既存のタイプライターをはるかに凌駕する速度と柔軟性を備えたデイジーホイールプリンターを開発しました。

ディアブロ社のプリンターは、高い印刷品質と30cps（1秒あたりの文字数）という高速性で市場に大きなインパクトを与えました。これは当時のIBMセレクトリック・タイプライターの約2倍の速度に相当します。ゼロックス社によるディアブロ社の買収後も、高性能プリンターの開発は続けられ、ディアブロ630は特に大きな成功を収めました。このプリンターは、IBMセレクトリックと同等の文字品質を、より低価格で高速に実現したのです。さらに、ASCII文字セットの完全サポートや、文字幅に応じてスペースを調整するプロポーショナル・スペーシングにも対応していました。

ディアブロ630の成功は、後続のデイジーホイールプリンターや他のプリンターにも影響を与えました。多くのプリンターがディアブロ630のコマンドセットをコピーまたはエミュレートしたのです。しかし、1980年代に入ると、インクジェットプリンターやレーザープリンターといった、より高速で多機能なプリンターが登場し始めます。これらのプリンターは、画像印刷や様々なフォントに対応できる点が大きなメリットでした。特に、ドットマトリックス・プリンターの高解像度化やレーザープリンターのコスト削減は、デイジーホイールプリンターの地位を揺るがす大きな要因となりました。

ゼロックス社は、ディアブロの技術を活用した低価格なタイプライターも開発しましたが、パソコンとワープロソフトの普及により、期待したほどの販売には至りませんでした。1980年代半ばには、手頃な価格のレーザープリンターやインクジェットプリンターが広く普及し、デイジーホイールプリンターは急速に市場から姿を消していったのです。

デイジーホイールプリンターの設計

デイジーホイールプリンターの中核は、文字が刻印された「デイジーホイール」です。このホイールは金属製またはプラスチック製で、サーボモーターによって回転し、必要な文字がハンマーとリボンによって紙に押し付けられます。デイジーホイールの交換によって、異なる書体やサイズを使用することができました。ただし、フォントの変更には手動での交換が必要であり、作業効率の面では課題がありました。

多くの機種には太字機能も搭載されていました。これは、文字を複数回打刻することで実現されました。高価な機種では、キャリッジをわずかに前進させることで太字を表現していましたが、安価な機種では、同じ位置に文字を複数回打刻することで太字を表現していました。このため、安価な機種では、経年劣化によって太字がさらに太くなるという現象も見られました。

また、デイジーホイールプリンターは、他のインパクトプリンターと同様に騒音も大きかったという欠点がありました。

双方向印刷とグラフィック機能

多くのデイジーホイールプリンターは双方向印刷に対応しており、行の印刷を交互に左右方向に行うことで、プリントヘッドの移動時間を節約していました。これは「ロジックシーク」と呼ばれ、効率的な印刷に貢献しました。

グラフィック印刷に関しては、デイジーホイールの構造上、ビットマップグラフィックの印刷には適していませんでした。しかし、ドットマトリックス状に文字を印刷することで、簡単なグラフィック表示を行うことは可能でした。高品質なグラフィック印刷には不向きでしたが、小さなロゴなどを印刷する用途には使用されていました。ブラザー工業は、デイジーホイールとドットマトリックスの両方のヘッドを搭載したプリンターも開発していましたが、レーザープリンターの普及により、この技術は広まることはありませんでした。

類似技術

デイジーホイールプリンターと類似した技術として、「シンブルプリンター」があります。シンブルプリンターは、デイジーホイールのかわりにカップ状の「シンブル」と呼ばれる印字機構を使用していました。NECのSpinwriterシリーズなどがその代表例です。

まとめ

デイジーホイールプリンターは、高品質なテキスト印刷を可能にした画期的なプリンターでした。しかし、技術革新の波に乗り遅れ、1980年代半ばには市場から姿を消しました。その歴史と技術的な特徴は、プリンター技術の発展を理解する上で重要な要素となっています。

もう一度検索