デスペレーション

デスペレーション

『デスペレーション』（原題: Desperation）は、現代ホラーの巨匠スティーヴン・キングによって1996年に世に送り出された長編小説です。この作品は、同年キングがリチャード・バックマン名義で発表した『レギュレイターズ』と密接な関連を持ち、物語の「前編」にあたる位置づけがされています。二つの作品は、登場する邪悪な存在の根源や性質、舞台となる架空の場所、そして一部の登場人物の名前といった基本的な枠組みを共有していますが、展開されるストーリーや作風は異なります。

特色と作風

本作は、1996年の発表当時からその特異な魅力で読者を惹きつけました。キングの初期傑作とされる『シャイニング』がそうであったように、本作においても、極限状況に置かれた登場人物たちの内面の葛藤や心理描写が丹念に描き出されています。複数の視点から語られる出来事は、最初は複雑に絡み合っているように見えながらも、物語が進むにつれて見事な構成力をもって一つの大きな流れへと収束していきます。細部にまで注意深く張り巡らされた伏線や、意外な展開は、キングが「希代のストーリーテラー」と呼ばれる所以を改めて感じさせます。

また、キング作品ならではの、ある種のカオスともいえる独特の語り口や言葉の選択は、読者を作品世界へ深く引き込む強力な引力となっています。物語全体を通して、「神」という極めて難解で普遍的なテーマが扱われている点も、本作の大きな特徴です。圧倒的な力を持つ邪悪な存在に対し、作中の人物たちは信仰や神の啓示ともいえる導きを心の支え、あるいは武器として対抗しようとします。しかし物語は、安易な結論には向かいません。「神が示す善とは一体何なのか」「もし神の意志によると思われる個々の出来事が残酷に映るならば、神そのものもまた残酷な存在なのか」といった、倫理的かつ哲学的な問いが読者に突きつけられます。これは、単なるホラーの枠を超え、信仰の本質や人間の存在意義を深く考察する機会を与えてくれます。

あらすじ

物語は、ネバダ州の寂れた鉱山町「デスペレーション」を舞台に始まります。この町で、住民や通りがかりの人々が次々と、狂気に取り憑かれたような様子の地元警察官コリー・エントラジアンによって拉致され、監房に閉じ込められるという異常事態が発生します。監禁された人々の中には、かつて祈りを通じて神の奇跡に触れた経験を持つ少年デヴィッド・カーヴァーがいました。デヴィッドは、切なる祈りを捧げることで、次に為すべきことを「声」として聞き取り、その導きによって数名の生存者と共に脱出を試みます。

しかし、エントラジアンは単なる狂人ではありませんでした。彼は異様な言葉を発し、さらには町の周辺に生息する野生の獣たちをも意のままに操る能力を示します。生存者たちは、この異常な状況下でデスペレーションの町から逃れることすら困難を極めます。事態の根源は、町の近郊にある「ラトルスネーク・ナンバー1」と呼ばれる古い坑道にありました。この坑道は19世紀の落盤事故で多くの人々が生き埋めになった場所であり、最近になって再びその坑道が発見されたばかりでした。そこに潜んでいたのは、「タック」と呼ばれる古代から存在する邪悪な存在でした。タックは、人間を「容器」としてその肉体を乗っ取り、地上に現れては無差別に殺戮を繰り返していたのです。

追いつめられた生存者たちは、少年デヴィッドが持つ不思議な力と、彼に聞こえる「声」の導きを信じ、抗うことのできないように見える邪悪な存在タックとの、文字通り命を賭けた戦いに挑むことになります。

出版

日本では、山田順子氏による翻訳で新潮文庫から刊行されています。上下巻の構成となっており、それぞれのISBNコードは以下の通りです。

上巻: ISBN 4102193235
下巻: ISBN 4102193243

テレビドラマ化

本作は、2006年にテレビドラマ化されています。この際の脚本は、原作者であるスティーヴン・キング自身が手掛けており、アメリカのABC放送で放映されました。制作には、製作としてケリー・バン・ホーン、監督としてミック・ギャリスといったスタッフが携わっています。

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