デラウェア川を渡るワシントン

『デラウェア川を渡るワシントン』は、ドイツ系アメリカ人画家エマヌエル・ロイツェによって1851年に描かれた油彩画で、アメリカ独立戦争の重要な出来事を描いています。この作品は1776年のクリスマスの日、ジョージ・ワシントンが大陸軍を率いてデラウェア川を渡った瞬間を表現しており、それにより大陸軍はニュージャージー州トレントンの戦いでドイツ人傭兵を奇襲しました。作品は2004年にニューヨークのメトロポリタン美術館の永久収蔵品として入手され、現在も展示されています。ホワイトハウスのウエストウイングには、この絵の模写が飾られています。

歴史的背景

エマヌエル・ロイツェ（1816年-1868年）はドイツ生まれですが、アメリカで成長しました。彼は1848年の革命の際にこの作品のアイデアを思いつき、アメリカの独立をテーマにしてヨーロッパの改革者たちを勇気づけようとしました。1850年に彼は最初のバージョンを完成させましたが、その直後にアトリエの火災で損傷を受け、その後修復されてブレーメン美術館に購入されました。1942年には第二次世界大戦中にイギリス空軍の空襲で破壊される運命にあります。

その後、ロイツェは1850年に原寸大の模写を制作し、同年の10月にニューヨークで展示されました。この展示会には5万人以上が訪れ、注目を集めました。画家マーシャル・O・ロバーツが破格の価格で購入し、その後も所有者は変わりましたが、1897年にはメトロポリタン美術館に寄贈され、今もそこで展示されています。2003年には、元美術館の守衛が絵にアメリカ同時多発テロ事件の写真を貼り付け、表面が損傷する一幕もありましたが、永久的な傷は残りませんでした。

美術的構成

『デラウェア川を渡るワシントン』は、その美術的構成によっても有名です。ワシントン将軍は明るい空の色で際立って描かれており、彼の顔は昇る太陽の光を捉えています。この作品は色調が落ち着いている一方で、赤色が随所に使われて強調されています。また、短縮遠近法が効果的に用いられ、遠くの船が奥行きを生み出すことでワシントンの船がいっそう目立ちます。

船に乗っている人々は、アメリカ植民地の多様性を示していると考えられます。スコットランド風の帽子をかぶった男性や、後方を向くアフリカ系アメリカ人の子孫、ライフルを持つ西部の射手、農夫、さらには中性的な服を纏っている表現も見受けられます。これにより、画面はドラマティックで生動感に満ちたものとなっています。後ろにいるジェームズ・モンロー中尉が旗を持ち、彼は後にアメリカ合衆国の大統領となる人物です。

歴史的な不正確さ

この作品にはいくつかの歴史的な不正確さも指摘されています。特に、描かれている国旗は当時存在していなかったデザインである点が論争の的です。ワシントンが渡河した1776年当時の国旗は実際には別のデザインであり、歴史的に正しい旗に描き換えるとすれば、グランド・ユニオン旗であるべきでした。また、船自体の大きさや構造についても、本来はより多くの人数を乗せられないとされる描写があります。

さらに、渡河は真夜中に行われたため、自然の光が描かれることは不可能だったはずです。ロイツェはこの点を美術的効果を引き立てるために、幻想的な光を用いて表現しています。このように、作品には多くの美術的凝縮がありつつも、実際の出来事とは異なる部分が多く含まれています。

デラウェア川を渡るワシントン