デルフィニア戦記

茅田砂胡によって執筆された日本のライトノベルシリーズで、イラストは沖麻実也が担当しています。ヤングアダルト層を中心に大きな人気を博した異世界ファンタジーの代表作の一つです。2019年2月の時点で、シリーズ累計発行部数は335万部を突破しています。

本編シリーズは完結していますが、同じ世界観でその後のキャラクターたちが登場する関連シリーズとして、「スカーレット・ウィザード」「暁の天使たち」「クラッシュ・ブレイズ」「天使たちの課外活動」などが展開されています。

刊行の経緯

シリーズの源流は、1980年代後半から90年代初頭にかけて同人誌として発表された、『キャプテン翼』の二次創作「望園鏡」シリーズにあります。基本的な物語世界はこの時点で確立されていましたが、登場人物の一部に『キャプテン翼』のキャラクター名が使用されていました。

その後、キャラクター名を全てオリジナルのものに改め、「王女グリンダ」シリーズとして、大陸書房より1992年に商業出版が開始されましたが、同社の倒産により未完のまま打ち切られます。

1993年、中央公論社（後に中央公論新社）のC★NOVELSファンタジアより『デルフィニア戦記』として刊行が再開され、物語は完結まで描かれ、2021年に最終巻が刊行されました。また、2003年からは中央公論新社より挿絵のない文庫版も刊行されています。

小説の他にも、画集、イメージアルバム、ドラマCDなどを収録したCDブックといったメディアミックス展開が行われ、2017年には舞台化も実現しています。

あらすじ

デルフィニア王国の若き国王ウォルは、先王の妾の子であったため、国内の貴族による陰謀によって王位と命を狙われます。城を脱出し、たった一人で追っ手と戦う絶体絶命の状況に陥った彼の前に、異世界から来たという謎の少女リィが突如として現れ、並外れた剣技で彼に助太刀します。この出会いをきっかけに、ウォルとリィは「同盟者」として、デルフィニア王国、そして大陸全体を揺るがす激動の時代へと巻き込まれていくことになります。

主要な登場人物

リィ（グリンディエタ・ラーデン）: 金色の輝く髪と緑の瞳、息をのむほど美しい容姿を持つ少女。物語開始時13歳。異世界から来た存在で、人間離れした身体能力と剣技を誇ります。「相棒」からもらった剣と、緑の宝石が嵌め込まれた銀環を常に身につけています。狼に育てられた影響で、一般的な人間とは異なる倫理観や感覚を持ち、世間体を理解しません。強大な異能の力は、ルウから贈られた指輪によって発動します。ウォルとは強い絆で結ばれた「同盟者」となり、後に王妃となります。物語の最後に元の世界へ帰還しますが、その真の姿は少年です。
ウォル（ウォル・グリーク・ロウ・デルフィン）: デルフィニア国王。先代国王の庶子で、堂々とした体格と黒髪黒瞳の持ち主。辺境で育ち、不本意ながら国王となりますが、大陸随一の剣技と優れた政治的手腕を発揮します。温厚な人柄と、相手を翻弄する食えない一面を持ち、「妙な王様」と評されます。クーデターで国を追われた際にリィと出会い、共に困難を乗り越える中で深い信頼関係を築きます。リィの特別な性質を理解し、その自由な行動を尊重します。リィとの別れを選んだ後、ポーラと結ばれ、子を成し王国を治めます。
ルウ（ルーファス・ラヴィー、ルーファセルミィ・ラーデン）: 物語の中盤から登場するリィの相棒にして剣の師匠。漆黒の長い髪と深い青い瞳を持つ青年。リィが人間の中で心を許した数少ない存在であるため、ウォルたちにも好意的に接します。常識を超えた存在であり、見る者によって印象が異なります。リィ、シェラと共にリィの元の世界へ旅立ちます。
シェラ（シェラ・ファロット）: 王妃付き女官としてリィに仕えますが、実際はファロットの暗殺者であり男性です。銀髪と紫の瞳を持つ美貌の持ち主。リィ暗殺の任務を帯びていましたが、聖霊の導きやリィとの関わりの中で自らの意思を持ち、リィを守ることを誓います。侍女としてリィの傍に仕えつつ、暗殺者としての技量を磨き、成長していきます。リィ、ルウと共に異世界へ渡り、彼女の傍らで仕え続けます。
イヴン（イヴ）: ウォルの幼なじみであるタウの自由民。浅黒い肌に輝く金髪が特徴で、国王親衛隊長を務めます。バルロとはよく口論しますが、ウォルへの忠誠は厚く、タウの自由民からも信頼されています。タウの頭目の息子として育ちましたが、実はベルミンスター家に関わるジルの息子です。リィの力によって命を救われ、後にシャーミアンと結婚します。
バルロ（ノラ・バルロ・デル・サヴォア）: ウォルの従弟。王位継承権を持ちながら、これを固辞した頑固なサヴォア公爵であり、ティレドン騎士団長。豪快な性格と優れた武勇で知られ、「炎」に喩えられる用兵を得意とします。ウォルを「従兄上」と呼び、深く敬愛し支えます。派手な女性関係を持ちますが、ロザモンドと結ばれ、結婚します。
ナシアス・ジャンペール: ラモナ騎士団長。バルロの親友であり剣の師匠。金髪と薄い水色の瞳を持つ端麗な容姿で、「美技」と称される鮮やかな剣術を使いこなします。穏やかな物腰とは裏腹に、鋼鉄の意志を持ちます。女性には奥手な一面もありますが、ラティーナと出会い、結婚します。
ポーラ・ダルシニ: ウォルの愛妾。下級貴族の娘で、可愛らしい印象。リィのお気に入りの一人であり、彼女との友情を築きます。ウォルとの間に子を設け、リィの計らいもあって王妃に準じる立場となります。

これらの人物以外にも、ウォルとリィの旅路に関わる多くのキャラクターが登場し、物語を豊かにしています。

世界観と主な舞台

物語の舞台はアベルドルン大陸。この大陸は北部のスケニア、中央に位置する大華三国（デルフィニア、タンガ、パラスト）、そして南部の小国家群から構成されています。北部と南部は「死の海」で隔てられ、中央部で繋がっています。中央部を流れるテバ川流域には、独立国家ペンタスなどが存在します。

デルフィニア王国: 物語の中心となる大国。中央に位置し、肥沃な平原や貿易港を持つ豊かな国です。ラモナ騎士団やティレドン騎士団といった強力な騎馬軍団を擁します。
タウ: 大華三国にまたがる山岳地帯に暮らす自由民の集まり。独自の自治と強い結束力を持ち、いずれの国にも属さない存在でしたが、物語を通じてデルフィニアと同盟関係を結びます。国王親衛隊（後の独立騎兵隊）はタウの自由民で構成されています。
タンガ王国: デルフィニアの東隣国。山岳地帯が多く農業に適さない国土のため、周辺国への侵攻を繰り返していましたが、国王ゾラタス父子を失った後、デルフィニアと終戦協定を結びます。
パラスト王国: デルフィニアの西隣国。多くの属国と交易を持ち経済的に安定していますが、デルフィニアの弱体化を常に画策しています。
スケニア王国: 大陸最北の寒冷な国。首都周辺の住民と、部族に分かれて暮らす先住民族がいます。司令塔たるファロット伯爵家が存在します。
ファロット一族: 「死神」と呼ばれる暗殺集団。世界各地に「里」を持ち、スケニアの伯爵家が全体を統括しています。「聖霊」と呼ばれる存在を崇拝し、洗脳された行者たちが任務を遂行します。
* 魔法街: デルフィニア国内にある、呪術師や占い師が集まる街。表向きの顔と、強力な能力者が潜む「本物の魔法街」という隠された顔が存在します。

これらの舞台で、ウォルとリィはデルフィニアの内乱、周辺国との戦争、ファロット一族の陰謀などに立ち向かいます。異世界から来たリィの力や、ファロット、魔法街といった幻想的な要素が加わり、壮大で波乱万丈な物語が展開されます。