トイレのピエタ

映画『トイレのピエタ』：手塚治虫の遺志と現代の物語

『トイレのピエタ』は、漫画家・手塚治虫が晩年に病床で綴った日記の最後のページに記されていた作品構想を原案とした映画です。2015年に公開され、RADWIMPSの野田洋次郎が主演を務め、松永大司が監督・脚本を手掛けました。

手塚治虫と「トイレのピエタ」

手塚治虫は晩年、胃がんに苦しみながらも創作意欲を失わず、病室で日記を書き続けていました。当時の医療事情から、本人には病名が告知されていませんでしたが、日記には自らの死期を悟るような記述も見られます。その日記の最後に記されていたのが、『トイレのピエタ』の構想でした。これは、手塚が「生前にアイデアを出した」という枠組みにおいては、最後の作品と言えるでしょう。

手塚は晩年、体力の衰えを感じながらも、1986年には妻と共にイタリアへ旅行し、システィーナ礼拝堂でミケランジェロの天井画を鑑賞しました。修復中の天井画を間近で見た手塚は、その幸運に深く感動し、冗談めかして「アトムの顔を描いておこうかな」と語ったそうです。また、フィレンツェではミケランジェロの「ピエタ」像も見ています。これらの体験が、晩年の手塚に大きな影響を与え、『トイレのピエタ』の着想に繋がったと考えられます。

映画版『トイレのピエタ』

映画版では、手塚の日記を参考に、監督の松永大司がオリジナルストーリーを構築しました。主人公は美大卒業後フリーターとして日々を過ごす青年・園田宏。彼は突然、胃がんで余命3ヶ月であることを宣告されます。そんな彼に、ひょんなことから知り合った女子高生・真衣が「今から一緒に死んじゃおうか？」と語りかけます。この出会いをきっかけに、園田は残された時間をどのように生きるのか、模索していくことになります。

映画では、主人公の性別や年齢が変更され、オリジナルヒロインとの恋愛が主軸に描かれています。また、ピエタ像の種類も母子像に変更されており、より普遍的な愛のテーマが強調されています。主演の野田洋次郎は、今作が俳優デビュー作となりました。ヒロインの真衣役には杉咲花が抜擢され、大竹しのぶ、宮沢りえといった実力派俳優も出演しています。

作品の評価

映画の公開後、手塚治虫の娘である手塚るみ子は、自身のTwitterで「タイトルにそれを使って欲しくはありませんでした」と率直な感想を述べています。一方、息子の手塚眞は、松永監督にエールを送り、映画の公開に合わせて手塚のアイデアを原案にしたアニメ「クミとチューリップ」を公開しました。このように、映画に対する評価は分かれましたが、手塚治虫の遺志を受け継ぎ、新たな物語を紡ぎ出した作品として、多くの人々に感動を与えました。

まとめ

『トイレのピエタ』は、手塚治虫の晩年の想いが込められた作品を原案とし、現代的な視点と解釈を加えて映像化された作品です。死をテーマにしながらも、生きることの意味を問いかけ、観る者の心に深く響く作品と言えるでしょう。

映画は国内外の映画祭で上映され、多くの観客に感動を与えました。手塚治虫のファンはもちろん、人生の意味を問い直したいすべての人におすすめしたい作品です。

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