トニー滝谷

トニー滝谷

村上春樹の短編小説『トニー滝谷』は、孤独を抱えながら生きる人々の姿を静かに、そして深く描き出した作品です。2005年には市川準監督によって映画化され、国内外で高い評価を受けました。

概要

『トニー滝谷』は、短編集『レキシントンの幽霊』に収録された作品で、村上春樹自身が執筆のきっかけを語ったエッセイ「On the Adaptation of Tony Takitani」（『村上春樹 雑文集』に「TONY TAKITANIのためのコメント」として収録）も存在します。また、主人公の名前は、村上がハワイで見かけた弁護士トニー・タキタニから取られており、その叔父はマカダミアナッツチョコレートを発明した滝谷守であるというエピソードも興味深いです。

あらすじ

主人公トニー滝谷は、ジャズトロンボーン奏者である父を持ち、孤独な少年時代を過ごします。イラストレーターとして成功を収めた彼は、美しい女性と恋に落ち結婚しますが、妻は異常なほどの服への執着を持っていました。しかしその執着が原因で彼女は事故死してしまいます。妻を失ったトニーは、残された大量の服を着てくれる女性を雇おうとしますが、やがて服はただの影に過ぎないことに気づき、全てを処分します。その後、父親の遺品であるレコードコレクションを手放し、彼は文字通り一人ぼっちになるのです。

映画

市川準監督による映画版『トニー滝谷』は、イッセー尾形が主演を務めました。第57回ロカルノ国際映画祭では審査員特別賞を受賞するなど、高い評価を得ています。

映画化にあたって

市川準監督は、かねてより村上春樹作品のファンであり、本作の映画化は念願だったそうです。映画では、原作には名前のない妻とアルバイトの女性にそれぞれA子（小沼英子）、B子（斉藤久子）という名前が与えられ、妻の過去の恋人が登場するなどの変更が加えられています。また、ラストシーンも原作とは異なり、映画オリジナルのエピローグが追加されています。

キャスト

トニー滝谷 / 滝谷省三郎 - イッセー尾形（二役）
A子（小沼英子） / B子（斉藤久子） - 宮沢りえ（二役）
語り - 西島秀俊

スタッフ

監督・脚本：市川準
原作：村上春樹
音楽：坂本龍一

受賞

第57回ロカルノ国際映画祭 審査員特別賞
第20回高崎映画祭 グランプリ

関連作品

村上春樹の長編小説『ねじまき鳥クロニクル』には、本作の主人公トニー滝谷が言及される場面があります。

『トニー滝谷』は、孤独、愛、喪失といった普遍的なテーマを、静謐な映像と音楽、そして俳優たちの繊細な演技を通して描き出した作品です。村上春樹の世界観を忠実に再現しつつ、映画ならではの表現も取り入れ、観る者の心に深く残る作品となっています。

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