トノト

トノトとは

トノトはアイヌ民族の伝統的な酒であり、特に祭事において神への供物として重要な役割を果たします。この酒は、アイヌ文化における祭りで行われるカムイノミやイチャルパなどの儀式に欠かせない存在です。具体的な製造方法や使用する原料に関しては、地域や時代によって少しずつ異なる点がありますが、基本的には稗（ピヤパ）を主な原料として醸造されます。また、ムンチロ（粟）などの他の穀物が使用されることもあります。

名前の由来

「トノト」という名称は、アイヌ語の「tono」（殿）と「to」（乳）が由来であるとされています。この語は、日本語から受け入れられたもので、松前藩などの殿様を指し、蝦夷地における有力な和人を指す意味も含まれています。したがって、トノトはこれらの人物から下賜された、乳のように濁った飲み物という意味を持つと考えられています。

醸造手順

トノトの醸造は、静内地方の手法に基づいて行われます。以下はその詳細な手順です。

1. 行器の準備: 醸造用の器具であるサケカㇻシントコを清めます。
2. 粥の調理: 鍋に水を張り、稗を煮て粥を炊きます。この際、粥の硬さは上にわずかな重湯が浮く程度にします。
3. 冷却: 炊き上がった粥を広げて、人肌程度の温度まで冷まします。
4. 麹の準備: 稗と同量のカムタチ（麹）をほぐします。
5. 混合: サケカㇻシントコの中で、冷ました粥と麹を一緒に練ります。
6. 神への祈り: 炉から熾き火を2かけら取り出し、アペフチ（火の女神）に対する祈りの言葉を述べつつ、サケカㇻシントコに加えます。この行為は醸造が成功するよう神の加護を願うための儀式です。
7. 準備の完了: サケカㇻシントコをござで巻き、その上部を縛ります。
8. 発酵: 1週間から10日間放置し、時折攪拌します。
9. 完成前の祈り: 祭事の前日にはござを解き、燠を取り出して炉に戻し、再度アペフチカムイに祈りをささげます。
10. 漉し作業: 最後に、別の容器（シントコ）を用意し、その上にざる（イチャリ）を設置してもろみを入れて漉します。

このように、トノトはアイヌの文化に根付いた伝統的な酒であり、神聖な儀式において特別な意味を持っています。トノトの生産過程は、地域の伝統や信仰が色濃く反映されており、アイヌ文化の重要な一部を形成しています。

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