トマス・アルタイザー

トマス・ジョナサン・ジャクソン・アルタイザー：ニーチェの影響を受けた自由主義神学者

トマス・ジョナサン・ジャクソン・アルタイザー (1927年5月28日 - 2018年11月29日) は、20世紀後半におけるアメリカ合衆国の神学界を代表する人物の一人です。彼は、フリードリヒ・ニーチェの哲学、特に「神の死」の概念を積極的に神学に取り入れ、独自の「神の死の神学」を展開したことで知られています。その思想は、従来のキリスト教神学に大きな衝撃を与え、現代神学における重要な議論の端緒となりました。

アルタイザーはウェストバージニア州チャールストンで生まれ、メリーランド州アナポリスのセント・ジョンズ大学を経て、シカゴ大学で学びました。同大学では学士号、修士号、そして哲学博士号を取得しています。彼の修士論文は聖アウグスティヌスの自然と恩寵に関する研究、博士論文はカール・グスタフ・ユングの宗教理解に関するものでした。これらの研究は、彼独自の宗教観形成に大きく貢献したと言えるでしょう。

大学卒業後は、インディアナ州ウェイバッシュ大学で教鞭を取り、その後エモリー大学に移り、聖書と宗教の助教授として長年にわたって教壇に立ちました。エモリー大学在職中の1965年と1966年、アルタイザーは複数の雑誌に自身の宗教観を掲載し、それらは後に彼の代表作となる『神は死んだか? (Is God dead?)』として出版されました。

この著作において、アルタイザーはゲイブリル・ヴァハニアンの『神は死んだ』と同様のテーマを扱いつつも、独自の結論を導き出しています。彼は新約聖書のピリピ人への手紙2章6節-8節におけるキリストの謙遜を重要な要素として捉え、従来のキリスト教神学とは異なる視点から「神の死」を考察しました。特に、キリストの受難と復活を通して、従来の宗教観を超えた新たな宗教的理解の可能性を探求した点が注目されます。

アルタイザーの著作は、ウィリアム・ハミルトンの『キリスト教の新しい本質』など、同時代の神学者による「神の死の神学」の議論とも深く関わっています。ハミルトンはアルタイザーとは異なる立場から「神の死」を論じていますが、両者の著作は互いに刺激を与え合い、当時の神学界に大きな影響を与えました。これらの著作は、現代神学における「神の死」というテーマの多様性を示しており、現代神学史を理解する上で重要な資料となっています。

アルタイザーは、1960年代という激動の時代にあって、既存の宗教観に鋭く疑問を呈し、新たな宗教的理解の模索を続けました。彼の著作は、現代人の宗教観に大きな影響を与え、今日においても神学、哲学、宗教社会学の分野で活発に議論され続けています。2018年に91歳で死去しましたが、彼の思想は現代神学に大きな足跡を残しました。

主な参考文献

W・E・ホーダーン(著)『現代キリスト教神学入門』布施濤雄(訳)、日本基督教団出版局1969年
ウィリストン・ウォーカー(著)『キリスト教史4 近・現代のキリスト教』)、野呂芳男・塚田理・八代崇訳ヨルダン社、1986年
* ハーヴィー・M・コーン(著)『現代世界[神学]]』[[松田一男]、聖恵授産所、1985年

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