トマス・クランマー

トマス・クランマー：イングランド宗教改革の立役者にして殉教者

トマス・クランマー(1489年-1556年)は、16世紀イングランドにおける宗教改革の中心人物であり、その波乱に満ちた生涯は、権力闘争と信仰の葛藤、そして最終的には殉教という悲劇的な結末で幕を閉じました。カンタベリー大[[司教]]として、ヘンリー8世の離婚問題からイングランド国教会の成立、そして宗教改革の推進まで、その存在感は抜きん出ています。

ケンブリッジから王室へ

ノッティンガムシャーの裕福な家庭に生まれたクランマーは、幼くして父を亡くし、貧しいながらもケンブリッジ大学で学問を修めました。若き日に結婚と離婚を経験し、スキャンダルに巻き込まれるなど、私生活では苦難の道を歩みます。しかし、優れた知性と外交手腕は、やがて彼を国王ヘンリー8世の側近へと導くことになるのです。

ヘンリー8世とキャサリン・オブ・アラゴンの離婚問題が持ち上がった際、クランマーは国王に離婚の正当性を主張する意見書を提出します。この提案は、国王の思惑と一致しており、クランマーは王の信頼を得て、急速に昇進していきます。トーントン助祭長、皇帝カール5世付き大使などを歴任し、ヨーロッパ大陸での滞在中にプロテスタントの思想に触れ、その影響を受けるようになりました。

カンタベリー大[[司教]]としての役割

1533年、クランマーはカンタベリー大[[司教]]に就任します。この抜擢は、ヘンリー8世がアン・ブーリンとの結婚を正当化するためであり、クランマーのプロテスタント的な思想も国王の意向と合致していたと考えられます。

大司教として、クランマーはヘンリー8世の離婚を承認し、イングランド国教会の設立に貢献しました。また、国王の度重なる結婚や、それに伴う政治的・宗教的な出来事にも深く関与しました。アン・ブーリンの娘エリザベスの代父を務めたこと、アンの処刑後にヘンリー8世とジェーン・シーモアとの結婚を承認したことなど、王室の重要な局面において重要な役割を果たしています。

クランマーは、政治的駆け引きのなかで、しばしば危険な立場に立たされました。処刑されたトマス・モアやアン・ブーリンらの弁護を試みたり、クロムウェルと共に聖書を英語で翻訳し普及させるなど、改革者として活動する一方、保守派との激しい対立も経験します。

宗教改革の推進と殉教

エドワード6世の治世下では、クランマーは宗教改革をさらに推し進め、『共通祈祷書』の制定など重要な役割を果たしました。しかし、メアリー1世の即位によって、イングランドは再びカトリックに回帰しようとし、プロテスタントであるクランマーは投獄され、異端として裁かれました。

獄中で、クランマーは一時的にカトリックへの転向を表明しますが、その後、その意思を翻し、信仰を貫き通すことを選びます。1556年3月21日、オックスフォードで火刑に処され、殉教しました。その死は、イングランド宗教改革における重要な転換期を示す出来事となりました。クランマーの生涯は、宗教改革の激動の時代を生き抜いた一人の聖職者の葛藤と、信仰の強さを物語っています。彼の残した著作や、宗教改革への貢献は、今もなお高く評価されています。

主要著作

Book of Common Prayer (1549年)
Ten Article
Defense of the True and Catholic Doctrine of the Sacrament (1550年)
Forty-two Articles (1553年)

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