トミーノッカーズ

スティーブン・キングの異色作『トミーノッカーズ』：田舎町に潜む謎と人間の業

1987年、スティーブン・キングによって発表された長編SF小説『トミーノッカーズ』（原題: The Tommyknockers）は、キング作品の中でも独特の存在感を放っています。彼の他の作品とは異なるSF的な要素が強く打ち出されている一方、キング自身は「これは人間が道具に使われる話だ。道具がいかに動くかには関心がない。人間がいかに動くかに関心があるのだ」と述べており、作品の本質は人間ドラマにあることを強調しています。

不可思議な出来事の連鎖：静寂な田舎町を揺るがす異変

舞台は、キングが創作した架空の町、メイン州ヘイブンです。作家であるボビ・アンダーソンは、飼い犬の散歩中に森の中で奇妙な物体を発見します。その物体に強い引かれを感じた彼女は、掘り返す作業にのめり込み、やがてヘイブンに不可解な出来事が発生し始めます。ボビの友人であるジム・ガードナーは、予感のようなものを抱き、ボビのもとを訪れ、そこで異常事態の渦中に巻き込まれていきます。

この発見をきっかけに、ヘイブンは徐々に異様な雰囲気に包まれていきます。住民たちの行動は奇妙さを増し、日常は狂気を帯びた様相を呈していきます。この変化は、ボビの発見した物体が何らかの影響を及ぼしていることを示唆しています。物語は、この物体と、それに翻弄される人々、そして彼らの葛藤と選択を鮮やかに描いています。

キング作品における異色の存在：SFと人間ドラマの融合

『トミーノッカーズ』は、宇宙人やUFOといったSF的な要素が前面に押し出された作品であり、キングの他の作品群とは一線を画しています。しかし、その本質はSF的な要素だけではありません。むしろ、人間の業、狂気、そして社会の闇といった普遍的なテーマが、SF的な要素と見事に融合することで、より深みのある人間ドラマを作り出しています。

物語の核心は、人間が外部からの影響、または未知の力によってどのように変化し、翻弄されるのか、そしてその中で人間がどう生きるか、という問いかけです。SF的な設定は、こうした問いかけをより効果的に表現するための手段として機能しています。

短編との繋がりと映像化

物語の中に登場するいくつかのエピソードは、『レベッカ・ポールソンのお告げ』、『ヒリー・ブラウン』として、独立した短編としても発表されています。これら短編は、『トミーノッカーズ』全体のテーマをより深く理解するために重要な役割を果たしており、作品世界への理解をさらに深めることができます。

1993年には、ABCテレビでミニシリーズとして放映され、日本ではビデオやレーザーディスクとしてリリースされました。また、2018年には映画化が計画され、『死霊館』シリーズのジェームズ・ワン監督が制作に携わることが発表されるなど、現在もなお高い関心を集めています。

出版情報と日本語訳

日本では、吉野美恵子氏による翻訳で文藝春秋社より出版されています。上巻と下巻に分かれており、多くの読者に親しまれています。

上巻 ISBN: 4167148137

下巻 ISBN: 4167148145

まとめ：読み応えのある傑作

『トミーノッカーズ』は、スティーブン・キングが描く人間の業と、SF的な設定が見事に融合した傑作です。謎めいた物体、不可解な出来事、そして人間たちの葛藤。これらの要素が絡み合い、読者を最後まで引き込む、圧倒的な読み応えのある作品となっています。キング作品の中でも異彩を放つ本作は、一度は読んでおく価値のある一冊と言えるでしょう。

もう一度検索