トラブル中毒

1983年の春、4月21日に世に送り出されたARBの通算6作目にあたるオリジナル・スタジオ録音盤が、『トラブル中毒』です。この作品は、当時のバンドにとって大きな転換期を目前に控えた時期に制作されており、後に続くメンバー構成の変更を予感させる、バンドの歴史において非常に重要な位置を占める記録となっています。

本作の発表時期は、グループのメンバーシップに変動が生じた激動のタイミングと重なっています。長年にわたりリードギターとしてバンドサウンドを支えてきた田中一郎は、このアルバム発表後のツアーを最後にARBを離れることになりました。また、ベースを担当していたサンジ（本名：野中良浩）も、様々な事情によりバンド活動を終えることとなりました。

結果として、『トラブル中毒』は、ギタリストの田中一郎とベーシストのサンジという、当時の強固なリズム隊とメロディメーカーが、正規メンバーとしてスタジオレコーディングに参加した最後のオリジナル・アルバムとなりました。この事実は、後世のリスナーにとって、彼らが揃った時期のARBサウンドを聴くことができる集大成的な作品として、本作に特別な意味合いを与えています。

このアルバムには、全10曲が収録されています。楽曲全ての作詞は、バンドのフロントマンでありボーカリストである石橋凌が手掛けています。また、アレンジメントはバンド全体、ARB名義で行われています。楽曲の作曲については、大部分をギタリストの田中一郎が担当していますが、「Do it! Boy」と「モンロー日記」の二曲は、石橋凌のペンによるものです。

収録内容は以下の通りです。

Do it! Boy (作曲: 石橋凌)
Give Me A Chance
ボート・ピープル
Black is No.1
ピエロ
War Is Over!
モンロー日記 (作曲: 石橋凌)
ギターを持った少年
トラブルド・キッズ
ファクトリー

これらの楽曲の中には、同時期に発表されたシングルと関連するものも含まれています。「トラブルド・キッズ」は、このアルバムからの先行シングル、あるいは同時期を代表する楽曲として、バンド通算9枚目のシングルとして発表されました。さらに、このシングルのカップリング曲として収録されていた「Give Me A Chance」も、本作に収められています。

収録曲のタイトルを見るだけでも、当時のARBが抱えていたテーマの多様性がうかがえます。「ボート・ピープル」や「War Is Over!」といったタイトルからは、当時の国際情勢や社会問題に対する関心、そして平和への強い願いが感じられます。一方で、「ピエロ」「モンロー日記」「ギターを持った少年」といった楽曲は、より個人的な感情、人間の内面的な葛藤、あるいは青春期の普遍的なテーマやロックンロールへの憧れを描いている可能性を示唆しています。「Do it! Boy」のような高揚感を伴うナンバーや、「ファクトリー」のような労働者の視点を思わせる楽曲、そして力強いロックアンセムである「Black is No.1」など、バラエティに富んだ楽曲群が、この時期のARBの表現力の幅広さを示しています。

『トラブル中毒』は、ギタリスト田中一郎とベーシストのサンジが最後にレコーディングに参加したオリジナル作品として、彼らがバンドにもたらした音楽的な貢献の一つの終着点と言えます。石橋凌のメッセージ性の強い歌詞と、当時のメンバーが作り出す骨太でエネルギッシュなサウンドが融合したこの時期のARBの音楽性が、本作に凝縮されています。その後のメンバーチェンジを経てバンドが新たな道を歩むことを知る上で、このアルバムは非常に重要なターニングポイントを示す作品であり、リスナーにとっては、この充実したラインナップによる最後の輝きを捉えた貴重な一枚として、現在も聴き継がれています。

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