トラリー

トラリー (Tralee)

トラリーはアイルランド南西部の主要な町であり、風光明媚なケリー県の県庁所在地です。アイルランド語名「トラ・リー（Trá Lí）」は「リー川の河口」を意味し、ディングル半島の付け根にあたるトラリー湾の最奥部に位置しています。広域を含む人口は2006年時点で約2万3千人に達しており、県内では最大の規模を誇る中心都市です。

歴史と遺産

この地は古くから交通の要衝として知られていました。スリーブ・ミッシュ山地を越える街道の宿場町として発展し、近隣にはエジプトのファラオの娘スコシアの墓とされる伝説的な巨石「スコシアの墓」が残されています。本格的な町の基礎は13世紀にアングロ・ノルマン人によって築かれ、強大な勢力を持ったデズモンド伯爵家の主要な居城が置かれました。現在も中世の城やドミニコ会修道院の跡地が見られますが、町はエリザベス女王に対するデズモンドの乱の最中、1580年に一度焼失しています。

再建後、トラリーは1587年にエドワード・デニー卿の所領となり、1613年には王室からの正式な認可を得て町としての地位を確立しました。デニー家はこの地の有力者として長きにわたり影響力を持ち続け、特に19世紀半ばのジャガイモ飢饉の際、他の地主が小作料を引き上げる中でそれを据え置いたとされる第4代エドワード・デニー卿の行動は、彼のプリマス・ブレザレンとしての信仰に基づくものとして語り継がれています。

町の歴史には、アイルランドの独立を巡る激動の時代が深く刻まれています。1798年のアイルランド大反乱を記念する槍兵像が町の中心部に立つほか、1916年のイースター蜂起の指導者の一人であるトマス・アッシュを記念して建てられたアッシュ記念会館には、ケリー県の歴史に関する博物館や、当時の街並みを再現した展示があり、多くの訪問者を集めています。1835年に建設されたトラリー裁判所は、リチャード・モリソン卿による美しい設計で知られ、敷地内にはクリミア戦争やインド大反乱に従軍したケリー出身者を追悼する大砲が設置されています。

20世紀に入り、アイルランド独立戦争とその後の内戦はトラリーに甚大な被害をもたらしました。特に1920年11月には、アイルランド共和軍(IRA)による警察官殺害への報復として、イギリス側のブラック・アンド・タンズが町を包囲しました。彼らは町の経済活動を完全に麻痺させ、1週間にわたり食糧供給を断ち切ったほか、複数の家屋を焼き払い、市民3人を銃殺するという残虐行為を行いました。この出来事は国内外から厳しい非難を受けました。続く内戦中の1922年8月には、近郊のフェニット港に上陸したアイルランド自由国軍が町を攻略するため、反条約派との間で激しい市街戦が繰り広げられ、双方に多くの犠牲者が出ました。

経済と観光

トラリーの経済において観光産業は重要な位置を占めており、年間約5500万ユーロもの観光収入をもたらしています。町の最大のイベントである「トラリー薔薇まつり」は毎年8月に開催され、国際的な注目を集めます。主な観光スポットとしては、ケリー県博物館、アイルランドの芸術活動が行われるシアンサ・ティーレ、稼働している国内最大級の風車であるブレンナービル風車、そして家族で楽しめる屋内ウォーターパークであるトラリー・アクアドームなどがあります。

周辺地域には古代の遺跡も数多く点在しています。

ロジャー・ケースメントが潜伏していたとされるケースメント砦
ラトゥーの望楼にあるシーラ・ナ・ギグ
フェニットにあるクロンファートのブレンダンのモニュメント（レプリカ）
トラリー湾を見下ろす鉄器時代の砦カハーコンリ

これらを含め、ケリー県内には多数の魅力的な考古遺跡が存在します。

インフラと文化

トラリーは南西アイルランドの交通の要衝であり、複数の国道や地域道が町を結んでいます。バス・エーランのターミナルからはダブリン、コーク、リムリックなどの主要都市への定期バス便が運行されています。鉄道は国鉄イルンロード・エールンがキラーニー、コーク、ダブリン方面へ運行しており、トラリー駅は1859年に開業しました。近郊のファランフォアにあるケリー空港からは、ダブリンやロンドンなどへの航空便が利用でき、町の西約10kmに位置するフェニット港は、1万7千トン級の船舶が接岸可能な重要な港湾施設です。

医療面では、ケリー総合病院やボン・セクーズ病院があります。教育システムは国内の多くの地域と同様に教会の管理運営が多いですが、宗派を問わない共学校も存在し、多様なニーズに応えています。地域メディアとしては、「ケリーマン」や「ケリーズ・アイ」といった地域紙、そしてラジオ・ケリーが情報を提供しています。

スポーツ活動も非常に盛んで、アイルランドの国技であるゲーリックフットボールを中心に、陸上、トライアスロン、サッカー、ラグビー、テニス、バスケットボールなど、多岐にわたるクラブが活動しており、地域コミュニティの活気を支えています。

トラリーは、航海者として知られる聖人クロンファートのブレンダンをはじめ、多数の著名なスポーツ選手、政治家、芸術家、学者などを輩出した地でもあります。また、アメリカ合衆国オハイオ州ウェストレイク市と姉妹都市提携を結んでおり、国際的な交流も行っています。

歴史に彩られた町並みと豊かな自然、そして活気ある現代文化が融合するトラリーは、ケリー県を訪れる旅行者にとって、魅力的な探索拠点となっています。

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